和菓子「紫の想ひ」。紫式部が「藤式部」と呼ばれていたことにちなみ、藤の花をモチーフにした=鶴屋吉信提供

 「源氏物語」や「枕草子」の世界観を表現した和菓子が高校生と老舗和菓子店のコラボから生まれた。高校生のみずみずしい感性を菓子職人が形にした。歴史的文学作品の情景と、作者や登場人物の心情が菓子に込められている。

 デザインをしたのは、京都府立嵯峨野高校(京都市右京区)の2年生24人。総合的な探究の時間における選択授業「京・平安文化論ラボ」に参加する生徒たちだ。古典を学び、その良さを若い世代にも広めることが授業の課題だ。

 生徒は昨年4月から4カ月ほどかけて源氏物語と枕草子の原文と現代語訳をつきあわせながら研究し、作品への理解を深めてきた。その魅力を、古典に興味がない人にも伝えようと選んだのが和菓子だった。

 老舗和菓子店の「鶴屋吉信」(京都市上京区)が協力した。「京菓子文化を後世に伝え、幅広い年齢層に届けたい」という店の思いとも合ったからだ。

 細かいデザインが可能な「意匠羊羹(ようかん)」で和菓子開発を進めた。生徒らは、研究を生かして羊羹のデザイン画を作成。店の担当者や菓子職人が夏ごろから学校を訪れ、議論や試食を重ねた。

 商品パッケージのデザインも生徒が考案。源氏物語をテーマにした羊羹「紫の想(おも)ひ」と、枕草子がテーマの羊羹「春はあけぼの」が年明けに完成した。

 「紫の想ひ」は抹茶羊羹に琥珀(こはく)羹を重ねた。植田結衣さん(17)は「紫式部が『藤式部』と呼ばれていたことなどから藤の花をモチーフに。涙のしずく形の花びらは、登場人物の切ない想いを表しています」と解説する。

 「春はあけぼの」の断面は4層でグラデーションだ。有名な一節「春はあけぼの。やうやうしろくなりゆく山ぎは……」から着想を得た。川嵜奏さん(17)は「下の層は夜明け前の暗い山を、そしてだんだん明るく山際を照らす太陽の光を表現しました」。鈴木智尋さん(16)は「太陽を表したオレンジは、清少納言の明るく型破りな人物像とも重なった」と話した。

 鶴屋吉信で担当した営業部の五十嵐茉紀さん(25)は「高校生の感性を何とか形にしたいと試行錯誤してきた。これまでにないデザインのお菓子ができ、私たちもうれしい」と話した。

 「まずは視覚で、次は味覚で。最後は心で。古典の世界を味わってもらえれば」というのが、生徒たちの願いだ。

 羊羹は各1728円。2月から期間限定で、鶴屋吉信本店で販売している。WEBでの取り寄せも可能。

 8、9日には旧三井家下鴨別邸(京都市左京区)で、「嵯峨野高校生による『源氏物語』&『枕草子』入門講座」(コラボ羊羹とドリンク付き)もある。参加費は1200円(別途入館料)で、同館ホームページから申し込みが必要(各日2部制で、定員は各回24人)。また、コラボ羊羹は、通常提供の喫茶の特別メニューとしても販売している(無くなり次第終了)。問い合わせは旧三井家下鴨別邸(075・366・4321)。

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