紫式部は地獄に落ちた――。こんな伝承が中世に広がったという。日本最高峰の古典「源氏物語」を書き上げた女性作家が、何をしたのか。
平等院ミュージアム鳳翔館(京都府宇治市)で展示中の仏教説話集「宝物集(ほうぶつしゅう)」に、紫式部の地獄落ちのくだりがある。現代仮名遣いにすると、おおむねこうだ。
〈紫式部が架空の源氏物語を書いたため地獄に落ちて苦しんでいる。法華経を写経して供養すべきだと、(仏あるいは紫式部が)ある人の夢に現れた。連歌師たちが集まって供養をした〉
宝物集は平安時代末期の武士、平康頼(たいらのやすより)が著した。成立したのは治承年間(1177~1181)で、源氏物語が書かれてから100年以上も後のこと。中世に語られた地獄落ちの伝承のはしりとみられる。
井上敦子学芸員によると、平…