社会を風刺する針の先から、違った景色が見えてくる。ミシン刺繡(ししゅう)という手段で制作する現代美術家・青山悟さん(1973年生まれ)の美術館では初となる個展が、東京・目黒区美術館で開かれている。
暮れなずむ街の風景に実在の人物の写真、絵画作品にたばこの吸い殻。膨大な色数の上糸と下糸の重なりだけで再現された平面や立体のイメージは、写実的でありつつ、近づいて見るほどに「本物」からの距離を強く感じさせる。
展覧会タイトルの「青山悟 刺繡少年フォーエバー」は、20年前にロンドンで参加したグループ展「Boys Who Sew(縫う少年たち)」に由来する。50歳の作家が名乗る「刺繡少年」に違和感が生じるとすれば、それはなぜだろうか。
「ギャップがあるからですよ。男は刺繡をやるはずないとか、50歳は少年を名乗ってはいけないとか。みんな無自覚なその違和感が、ひょっとしたら構造的差別につながってるかも」
ロンドンでの学生時代、希望…