米国の大学スポーツを統括する全米大学体育協会(NCAA)はこのほど、大学側が学生アスリートに報酬を支払うことを認めました。米国では長らく、大学による学生への報酬の支払いは禁じられてきました。なぜ今、支払いが認められたのか。ワシントン大アメリカンフットボール部で指導するなど米大学スポーツ事情に詳しい追手門学院大の吉田良治客員教授に聞きました。

分配額は年間2000万ドル

 ――NCAAが認めた内容とは。

 米国の有力校はアメフトやバスケットなどの放映権収入などで利益を得ています。その収益の一部を学生アスリートに分配することをNCAAが容認しました。いまのところ「パワー5」と呼ばれる、米国内で注目度の高い五つのカンファレンスに所属する69大学で来年秋から分配が可能となり、1校あたりの分配額は年間2千万ドルになります。1校の学生アスリート数を500人とすると、1人当たりの報酬は年間4万ドル。その金額は今後、上がっていくとみられています。

多くの観衆を集め盛り上がる米大学バスケットボール=AP

 ――決定の背景には何があったのでしょうか。

 報酬が支払われないことに対し、学生アスリートの不満が高まっていました。大学やNCAAが学生の名前(NAME)や画像・映像(IMAGE)、肖像権(LIKENESS)、いわゆる「NIL」を使って収益をあげているのに、適切な分配がされていないと提訴する動きも出ていました。また、米政府の全米労働関係委員会(NLRB)が、学生アスリートと所属大学の間には「雇用関係」があるとの判断を示したことも後押しとなり、対価を求める動きが強まりました。

 有力校には年収10億円を超えるヘッドコーチが存在し、選手との格差も指摘されていました。指導者が多額の収入を得ているのに、実際にプレーする自分たちは「教育に関係ない金銭」の受け取りができないことに納得がいかなかったこともあると思います。

 ――NCAAがうたうアマチ…

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