連載「路面電車新時代」

 路面電車のまち、広島市。ドイツや日本各地で使われていた車両が走り、原爆投下3日後から運行を再開した「被爆電車」も現役だ。「動く交通博物館」とも呼ばれるまちはいま、大規模な「改造」が路面電車を軸に進む。

 山陽新幹線で到着した国内外の観光客がJR広島駅の階段を下りると、バスターミナルの脇に路面電車の停留場が目に入る。

 内装や窓枠が木製でレトロな旧型車両、新型で低床のLRV(ライト・レール・ビークル)が行き交い、順番待ちの客を乗せては発着を繰り返す。

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 市内に住む元市開発局長の樋渡敬宇さん(80)は、買い物には必ず路面電車を使い、「必要性を感じない」と車の運転免許は持っていない。「路面電車は当たり前の存在。東京や大阪のような大都市ではないから路面電車で間に合う」

 市民生活に定着する半面、朝夕のラッシュ時の車両間隔の過密ぶりは激しさを増している。広島駅の停留場付近は路面電車が数珠つなぎとなり、手前の停留場で降りて駅まで走る乗客も少なくない。

 過密さは路面電車の本数増が要因で、一度に運べる乗客を増やす狙いからの1編成あたりの車両の多さも、「渋滞」を加速させる。

 「始発・終点の広島駅に路面電車が集中し満杯になった」。広島電鉄元役員の中尾正俊さん(80)は、過密さの理由に交通拠点の容量オーバーを挙げる。「本数を調整する職員による線路の切り替え作業も限界。『JRへの乗り換えが間に合わない』との苦情も寄せられた」

【連載】路面電車新時代

 車社会の発展とともに減っていった路面電車が再び注目を集めています。乗り物としての役割にとどまらず、様々な課題を解決し、まちを活気づけるカギと位置づける各地の取り組みを紹介し、その可能性を探ります。

「世界と交流できる場に」

 過密さの解消のため、広島市…

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