【動画】高松刑務所で進む「学び直し」の授業=多知川節子、内海日和撮影
幾重もの扉を越えてたどりつく小さな部屋に、若草色の作業着に身を包んだ3人の男性が一列になって入っていく。
一人ずつ座った長机の上には、1本の鉛筆と消しゴムだけ。
3人は講師から配られたプリントに静かに向き合う。
ここは、高松市中心部にある高松刑務所。
昨年11月、窃盗の罪で服役しているオカダさん(83)=仮名=は、キリンの絵の隣に、薄く印字された「きりん」のひらがなをなぞっていた。
隣にある空白のマス目に、もう一度「きりん」と書く。
「おおかみ」
「やぎ」
「おっとせい」
優しい筆圧で、丁寧に、プリントを埋めていく。
次は音読。一字ずつ、確かめるように「き、り、ん」と声に出す。
「きれいに書けていますよ。読む練習も、お部屋でしてくださいね」
この教室で国語を指導する石川志保さん(52)が声をかけた。
「はい、ありがとうございます。先生のおかげです」
オカダさんは右手に鉛筆を持ったまま、左手を立て、拝むようなしぐさで感謝を伝えた。
この塀の中の教室では、小中学校レベルからの学び直しができる。「教科指導」と呼ばれる刑務所での「矯正処遇」の一つだ。
社会で生きていくうえで最低限必要な学力を欠くことで、窃盗などの犯罪を繰り返してしまう人たちに基礎学力を身につけてもらい、社会復帰を支える狙いがある。2006年度から各地の刑務所で始まった。
500人前後の受刑者のうち再犯者が9割以上を占める高松刑務所でも、06年5月から教科指導を実施してきた。
国語、算数、社会の授業が月2回ずつあり、工場などでの刑務作業を中断して受講する。学べる期間は原則、半年から1年だ。
「塀の中の教室」で学びに向き合う受刑者と、それを支える人たちの姿を連載で伝えます。オカダさん=仮名=が80歳を過ぎて勉強を始めたのは、刑務所内の出来事がきっかけでした。
オカダさんは昨年10月から学び始めた。
都道府県名など生活に身近な…