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 そのアイドルは片足で立っていた。ステージの上で、仲間たちに支えられながら。

 東京・浅草の浅草寺のそばにある遊園地「浅草花やしき」。

 建物ぎりぎりに疾走する「ローラーコースター」から絶叫が響き、メリーゴーラウンドでは木馬が上下しながらゆったりと回る。狭い敷地にアトラクションを詰め込んだ園は2023年、開園170周年を迎えた。

 そんな遊園地を拠点に活動していたアイドルグループがあった。

 「花やしき少女歌劇団」だ。

 小中高生の少女ら20~30人が所属し、園内のステージで歌や踊りのショーを披露し、地域イベントに出演した。

 10年ほど前に撮影された1本の動画がある。

 スパンコールのついた黄色のベストに白いシャツ、白いパンツ姿の少女たち12人が園内のステージで披露したショーだ。

 カメラは中央の少女に焦点を当てている。

 大きな瞳、口元に八重歯がのぞく少女は1人だけ、両わきの2人と手をつなぎ、支えられて立っている。

 少女を覆い隠すように他のメンバーがぐるりと囲むフォーメーションで曲が始まった。

 輪がほどける。

 つらいことや悲しいことあっても乗り越える気持ちを歌った歌詞が、手話の振りをつけて披露された。

 中央の少女は支えられたまま笑顔で歌い終え、客席から「唯ちゃーん」と声がかかった。

【動画】「花やしき少女歌劇団」の木村唯さん、生前最後のライブ=ファンのコンタさん撮影

仲間は唯さんを支えるフォーメーション

 少女は木村唯さん。

 歌や踊りが飛び抜けてうまく、歌劇団のエースだった。

 このとき、小児がんのため足の切断手術を受け、右足のひざ上から下を失っていた。

 唯さんは中学生だった12年、「横紋筋肉腫」という小児がんに襲われた。それでも治療を続けながら、ステージに立ち続けた。

 歌劇団のメンバーは、どうすれば唯さんが安心してステージに立てるか、話し合った。

 レッスンでも本番のステージでも、唯さんが片足のときや義足をつけたときに、周囲で支えるフォーメーションを組んだ。

 キャスターつきのいすで登場するときは、スムーズに出られるよう手助けした。

 メンバーは小中学生や高校生。いつも明るく振る舞う唯さんの姿をみて、深刻な病だと考えるメンバーはほとんどいなかった。

だが病状は悪化、医師の説明は

 だが、病状は悪化していた…

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