25日朝、携帯電話に見知らぬ番号が表示されていた。気味悪さを感じながらも応対すると、相手は首相、岸田文雄の秘書だった。代わった岸田が言った。「何とか勝たせて下さい。よろしくお願いします」

 電話を受けたのは島根県安来市で金属加工会社を営む藤原敏孝(70)。「精いっぱい頑張ります。安心して下さい」。首相からの電話に驚き、そう返したが、複雑な思いはぬぐえない。

 4日前、藤原は岸田と一緒にいた。派閥の裏金事件を受け、岸田の肝いりで始まった自民の政治刷新車座対話の場だ。岸田は、衆院トリプル補選で唯一の与野党対決となった島根1区での応援に合わせ、党員との意見交換のため、山あいにある安来市の会場を訪れていた。旧伯太町の党支部長を務める藤原はトップバッターだった。

車座対話で有権者の話を聞く岸田文雄首相=2024年4月21日午前10時13分、島根県安来市広瀬町、垣花昌弘撮影

 島根は衆院への小選挙区制の導入以降、全国で唯一、自民党が議席を独占し続けた県だ。今回の補選の敗北は、県全体で一つの選挙区だった中選挙区時代に竹下、細田、桜内の競い合いで築かれた最強の自民王国の崩壊を意味する。小選挙区導入から丸30年。王国でもいよいよ、個々の政治家が県議や市町村議を従える「軍団」による選挙戦は機能しなくなり、党の看板に左右される時代になってきた。選挙制度や公共事業のあり方など歴史的背景を踏まえ、補選の結果を検証していく。

 「我々党員、恥ずかしい気持…

共有