北海道立江差高等看護学院(江差町)で複数の教員からパワーハラスメントを受けた男子学生が2019年に自死した問題で、遺族がパワハラと自死との間に因果関係があるとして道に約9500万円の損害賠償を求めた訴訟の第1回口頭弁論が29日、函館地裁(五十嵐浩介裁判長)であった。道側は書面で請求の棄却を求めた。
「道が息子の自死が教員のパワハラが原因であることを認めない限り、息子の無念は決して晴れません」
亡くなった学生の母親が法廷に立ち、意見陳述をした。声を震わせて「息子の死の原因が何であったかを適切に判断していただければと思います」と訴えた。
訴状などによると、亡くなった学生は2年生だった17年、再試験のプリントの提出期限に1分ほど遅れたため、副学長(当時)に受け取ってもらえず留年が決定。19年には別の教員から暴言や執拗(しつよう)な非難を受け、「死にたいかもしれない」と言ったり、たばこの吸い殻を食べて死のうと考えたりするようになった。他の教員にも「看護師になれると思ってんの」などと言われ、自分から教員に対し「人格を変えます」と言うほど精神的に追い込まれたとされる。
原告側は、学生が19年9月ごろにその教員から指導を拒否されたため、単位を落としたと誤解し、教員らのパワハラが続くと絶望して自室で自死したと指摘。こうしたパワハラ行為自体や、歴代学院長がパワハラを放置し、パワハラや自殺予防に関する対策を講じなかったことは安全配慮義務に違反し、学生の生命、身体、人格権を侵害する不法行為だと主張した。
設置者の道については、12年ごろには同学院での不適切な指導について苦情が寄せられていたのに、予防などの措置をとらなかった責任があるとした。
この問題を巡っては、遺族の求めで道が設置した第三者調査委員会が昨年3月、複数の教員によるパワハラ行為を認定し、自死との間に賠償責任を負う「相当因果関係」があると結論づけた。これを受けて遺族は道の謝罪を受け入れたが、その後、道はパワハラによる精神的苦痛に対する賠償には応じるとした一方、自死に対する賠償を拒否した。
裁判の後、母親は記者会見した。
道から謝罪された際、「(息子に)本当に認めてくれたねと話しかけた」という。「あの謝罪はなんだったのか」と不信感をあらわにした。
道に望むことについて、「息子はどうやっても帰ってこない。だからこそ、きちんと(パワハラによって)人の命が奪われたということは認めてもらわないと報われないので、必ず認めてもらいたい」と語った。(野田一郎)