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昭和大学付属烏山病院で「大人の発達障害外来」を立ち上げた元院長の加藤進昌さん=東京都内

記者コラム 「多事奏論」 編集委員・岡崎明子

 忘れたころに、ふと連絡をくれるありがたい取材先の一人に、精神科医の加藤進昌(のぶまさ)さん(77)がいる。加藤さんは昭和大学付属烏山病院の元院長で、2008年に日本初の「大人の発達障害外来」を作ったことでも知られる。

 発達障害は生まれつきの脳の特性だから大人になって突然、発症するわけではない。社会に出て「人間関係がうまくいかない」「仕事のミスを繰り返す」といった困り事に直面し、気づく人が多い。

 その加藤さんが、再び「日本初」に挑んでいるという。理事長を務めている晴和病院を建て替え、知的障害がない自閉スペクトラム症(ASD)の人が親亡き後、自立するための拠点にするという。

 ASDの人の親亡き後問題――。大事なことだと思うが、加藤さんに話を聞いても、正直ピンと来なかった。顔に「はてなマーク」が出ているのを見かねたのか、烏山病院で当初からデイケアを実践してきた精神保健福祉士の五十嵐美紀さんを紹介してくれた。

 五十嵐さんや臨床心理士の横井英樹さんによると、デイケアの参加者には50~60代の人もおり、高齢化した親の病気や死をきっかけに、生活が破綻(はたん)してしまうことも少なくないという。

 高学歴で働いていても、身の回りの世話や精神的ケアを親に依存しているASDの人は少なくない。将来を見通すことや周囲に助けを求めるのが苦手、といった特性もある。そのため、親が亡くなった途端、食事が満足に取れなくなったり、ひきこもったりするリスクも高いという。

 親の方も、何とか就職したわが子が仕事に専念できるようにと過保護になりがちだ。これが、さらに子どもの自立を妨げる悪循環につながっているという。

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