レッツ・スタディー!経済編㉛ 確定申告の季節がきた!
三田紀房さんの人気投資漫画「インベスターZ」にNMB48の安部若菜さん(23)、松岡さくらさん(21)が入り込み、経済を学ぶ連載。今回のテーマは「税と確定申告」です。今回、新たにNMB48から吉見純音さん(17)が体験入部。インベスターZの登場人物たちと語り合います。(構成・阪本輝昭)
レシートとにらめっこ… NMB48の3人も確定申告の準備中
安部若菜「ええと、この領収書はあのときの出費で、このレシートはあのときの……」
財前孝史(道塾学園投資部員) 「何をしてるんですか?」
神代圭介(投資部主将)「もしかして所得税などの確定申告(2025年は2月17日から3月17日まで)の準備?」
安部「はい。税理士さんにお渡しする領収書類を再度チェックしているんです。毎年、自分で最後までやってみようと思うんですが、経費のうち、どれがどの費目にあたるのかなどなかなか難しくて……。結局、忙しさに追われて税理士さんにお任せしています」
財前「確定申告。1年間の収入から必要経費などを差し引いて(控除)、所得額とそれにかかる所得税などの額を計算して確定させる手続きのことですよね。宮宇地先生、せっかくなのでこっちに来ていただいて、確定申告が必要な人たちについて教えて下さい!」
宮宇地俊岳(追手門学院大教授)「対話パートには初登場となる宮宇地です。こんにちは。確定申告が必要になる人は色々いますが、その例をいくつか挙げると、個人事業主として年間所得が48万円超▽年間の給与所得が2千万円超▽副業の所得が年20万円超▽何らかの還付を受けようと考えている――などの人ですね」
松岡さくら「『e-Tax』という電子申告の仕組みもあるし、だいぶ手続きが便利になったとはいうものの、用語は難しいです。両親に色々尋ねながら、何とかやっていますけど……。少し物憂いシーズンでもあります」
宮宇地「でも、確定申告(や年末調整)をすることで、1年間の医療費が10万円を超える人▽住宅ローン減税対象の人▽ふるさと納税をした人――などは控除が増えて、払い過ぎた税金が戻ってくることもあります」
神代「なので、会社勤めの人でも確定申告をした方がいい場合もあるんですよね」
吉見純音「でも、確定申告ってちょっと楽しくないですか?」
財前・神代「え?」
意外と楽しい!?確定申告 新しい知識が次々と(吉見純音)
よしみ・あやね 2007年、兵庫県生まれ。22年、NMB48加入。愛称よしみん。
吉見「あっ、自己紹介が遅れました。NMB48の吉見純音といいます。2022年に加入した9期生です。高2なんですが、わかぽん先輩に体験入部を勧められまして」
安部「よしみんはアイドル活動はもちろん、勉強もすごく頑張っていて。そのほかにもピアノ、田植え、ゲーム……と特技や才能が豊かな後輩なんです。知的好奇心が旺盛なので、投資部の活動にも興味がわくかなって」
松岡「よしみん、ようこそ! ちなみに、確定申告の楽しさってものを私にも教えて……」
吉見「私、去年初めて自力で確定申告したんですが、初めて知ることが多くて面白かったんです。もちろん両親に助けてもらったり、分からないことは税務署に電話して教えてもらったりしながらでしたが」
財前「初めて知ることって、例えばどんなことですか?」
吉見「私自身もそうなんですが、働く学生の税負担を軽減する『勤労学生控除』という制度があることとか」
確定申告を機にFPに挑戦中 「知識がないと損をする」(松岡さくら)
まつおか・さくら 2003年、大阪府生まれ。21年、NMB48に加入。愛称さくら、さくぱん。
松岡「勤労学生控除! 私も確定申告の書類を見て初めて知ったよ。税金に限らず、知識をもっていないと損をすることが多いなあって実感しました。だから今、FP(ファイナンシャルプランナー)の資格をとろうと思って勉強中なんだよね。まずは3級からだけど」
安部「えっ、すごい。確定申告がきっかけでFPの勉強を始めるなんて……」
松岡「まだ始めたばかりだけど面白いです」
吉見「面白いといえば、何がアイドルの『必要経費』にあたるのかというテーマは奥深いなと思いました。税務署の人に聞いて『へえ~』と思ったことが多くあります」
財前「必要経費。事業主が収入を生み出すために要したコストなどのことですね」
宮宇地「はい。所得税額の計算に際し、必要経費は収入から差し引くことができます。経費が大きくなるほど所得額は減るので、税負担は軽減されますが、事業との関連が薄いものは当然、必要経費とはみなされません」
吉見「そうなんです。例えばカラオケ代。友達と遊びに行っただけのカラオケ代は必要経費にはなりませんが、アイドルとして歌唱イベントに臨む際、練習として『一人カラオケ』をした際の費用は経費になる可能性があるそうでした。同じカラオケ代でも扱いが変わるのが興味深いなって」
松岡「私、公演で新ポジションを覚えた時や別チームにまたぎ出演した時、頑張った自分へのご褒美にタピオカやスイーツを必ず買うんです。練習のモチベーションでもあるんです。その代金は必要経費には入らないですかね」
神代「それはちょっと難しそうな……」
確定申告で得た「リアルな納税感」 税の使途にも関心(安部若菜)
あべ・わかな 2001年、大阪府生まれ。18年、NMB48に加入。愛称わかぽん。
安部「しかし、初めて確定申告をしたときは『ううっ、これだけ税金に持っていかれるのか……』というリアルな感覚を味わったよね。同時に『どうか無駄なく、ちゃんとした用途に使われるといいな』とも思いました」
松岡「大学生の年代になると、アルバイトをする人も増えて、税金のことが一気に身近になりますよね。『103万円(所得税がかかる年収の最低ライン)の壁』が話題ですが、確かに私の大学の友達にも、103万円を超えないように神経を使いながら働いている子が多いです」
宮宇地「皆さんは、納めた税金をどんな用途に重点的に使ってほしいと思いますか?」
松岡「教育分野です。親の経済力が子どもの学ぶ環境や条件を左右する『教育格差』の問題について大学で学んでいます。日本は資源もないし、人が重要な『資源』だと思います。希望する子どもがなるたけ意志通りに学べる環境づくりに使ってほしいなと」
吉見「公共施設や交通機関での一層のバリアフリー化です。障害のある人もない人も、お年寄りも子どもも、なるべくハンディキャップを感じずに暮らせる街がいいなと思います」
安部「少子化対策です。同世代の友人たちと話していても、主に経済的な理由で、将来の結婚や子どもを持つことにちゅうちょや不安を感じている人が少なくないことを感じます。未来のための投資を期待したいですね。
あと図書館。新刊で買う本も多いですが、絶版になった昔の小説とか、図書館でしか借りられない本も多いので。あとは……。あー、それより確定申告! 領収書の整理が途中だった!」
財前・神代「頑張って……!」
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【解説】日本の国民税負担率「45%」、世界の中では何位?
追手門学院大の宮宇地俊岳教授(財務会計・ファイナンス)による経済用語の解説コーナーです。
税の仕組みは古代からあり、領主が徴収する税は江戸時代までは田畑の作物などの物納が中心でした。明治時代に入ると、土地の値段や個人・法人の所得に税がかけられ、現代と同じ金納による税制が整えられました。
税金は「何に課せられるか」(課税対象)、「誰が課すか」(課税主体)、「どのように納めるか」(課税方式)で分類できます。
課税対象別では、①所得にかかる税(所得税、住民税など)②財産にかかる税(相続税、固定資産税など)③消費にかかる税(消費税など)に分けられます。課税主体の視点からは、国に納める「国税」(所得税、法人税、相続税など)と地方公共団体に納める「地方税」(住民税、固定資産税など)。消費税は、国・地方の両方が課しています。
課税方式の視点では「直接税」と「間接税」があります。直接税は税金を負担する人と納める人とが同じで、間接税は異なります。商品などを購入する消費者が払い、事業者が納める「消費税」は代表的な間接税です。
国民全体が得た所得に対して、税や社会保障の負担度合いを示す「国民税負担率」という指標があります。2024年度は45.1%(うち税負担率26.7%、社会保障負担18.4%)でした。国民税負担率をOECD加盟36カ国間で比較した21年度のデータによると日本は22位です。
納められた税はどんなことに使われている?
納められた税は、どのようなことに使われているのでしょうか。25年度の一般会計予算案によると、政府の歳入は、主に税金(67.9%)と国の借金を意味する公債金(24.8%)です。歳出の主たる項目は社会保障(33.1%)、防衛関係費(7.5%)、公共事業(5.3%)、教育・科学振興(4.8%)と地方交付税交付金(16.5%)、および国債の返済と利払いを意味する国債費(24.4%)といったものです。
私たちの稼ぎに課される所得税を納める上では、所属する勤務先が調整手続きを行ってくれる「年末調整」か、個人で税務署へ申告する「確定申告」の手続きが必要です。
所得には、勤務先から受け取る給与・賞与などを基礎とする「給与所得」▽保険関連で受け取る一時金や満期返戻金などの「一時所得」▽年金収入や副業収入、金融資産の利子・配当収入などの「雑所得」――があります。
所得税の税率は所得に応じ7段階 金融所得は「分離課税」
金融資産の運用から得た金融所得は雑所得に該当し、一律20.315%の税率が課されますが、預金や証券から生じる利息などは、あらかじめ税額を差し引かれた金額を受け取る形となっていて(源泉分離課税)、株式の売却益や配当収入については別途確定申告が必要となります(申告分離課税)。
NISA(少額投資非課税制度)などを利用する場合には、金融所得について年限と金額上限を定めた非課税措置が用意されています。
所得税は、所得の増加に応じて5%から45%までの7段階の税率が適用される累進課税制度を採っていますが、所得が103万円以下の場合には、所得税は非課税となります。
また、家族の稼ぎに関連して、配偶者や子どもの収入が103万円以下の場合には、扶養する納税者の所得から一定額を減じる控除措置を受けることができます(配偶者控除・扶養控除)。なお、所得が106万円を超えると(所得税が課され、控除枠もなくなる上に)年金や健康保険などに加入する義務が新たに生じます。
税や社会保険料は、非課税枠や控除枠など、国民間の所得を再分配することを考慮して制度が設計されているため、分岐点となる基準値に注意する必要があります。上述した「103万円の壁」または「106万円の壁」をめぐっては、働き控えの原因になっているなどとして、見直しに向けた議論が活発になっています。
【プロフィル】安部若菜さん、松岡さくらさん、吉見純音さん
あべ・わかな 2001年…