渋沢健さんは、当時勤めていたヘッジファンドから独立するのも「一人で思い立ちました」と言う。妻に相談したところ、「サポートする」と、背中を押されたそうだ=門間新弥撮影

 新しい1万円札の顔となった「日本資本主義の父」渋沢栄一の子孫が、金融と社会課題をつなげ、解決に導く。コモンズ投信の会長を務める渋沢健さん(63)だ。一人で思い立ったアイデアを、仲間を募って広げていく。栄一の教えも現代に生かす。原点は、ある人物が語った言葉にあった。

「相談があります」

 渋沢栄一の玄孫(やしゃご)だ。金融の世界に身を置く。20年ほど前、よく電話で「相談があります」と誘われた。相手はアフラック日本社(現アフラック生命保険)を立ち上げた大竹美喜(よしき)さん。同じ大学で客員教授を務め、交流を深めた。ある日、大竹さんは「人は、一人では何もできません」と前置きして、続けた。「だけど、物事は一人から始まります」。いま実感する。「まさに言葉通りでした」

 大切にする「物事」が、社会的な課題の解決にお金を振り向ける仕組みだ。きっかけは米同時多発テロ。2001年9月11日、シアトルに出張中だった。イスラム教徒に見える身なりの男性が、手にした花束を有名な噴水のたもとに置く。周囲に集まった市民は大きく拍手。この場面に立ち会い、世の中には実に多元的な意見や感情があると肌で感じた。金融で稼ぐだけでは「社会はサステイナブル(持続可能)になりません」。

 かつて勤めていた米ヘッジファンドの経営者はすぐに私財を投じ、消防士の遺族に手を差し伸べる基金を立ち上げた。「当時、日本ではバブル崩壊後の『失われた10年』。こうした積極的な動きも失われていたのでは」。その後、別のファンドに掛け合う。運用成績に応じて投資家から受け取る成功報酬の10%で、日本の社会起業家を支援しないか。ビジネスを通じて社会問題の解決に取り組む人を指す。ファンドが応じる。一人で思い立った物事が数年後、仲間を得て動きだした。支援を受ける側が「ヘッジファンドのお金?」と、とまどうほど先進的だったという。

■リーマン・ショックで頓挫し…

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