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大阪府立大阪わかば高校の授業を視察する金城泰邦・文科政務官(左)ら=2025年1月22日、大阪市生野区、浅倉拓也撮影

 親と共に日本に移り住むなどした「日本語指導が必要な児童生徒」が急増している。言葉をはじめ様々な壁があり、2022年度の大学などへの進学率は全国平均で47%と、全高校生(75%)より低い。

 だが、同年度の大阪府立高校では79%と高く、全府立高校生(81%)と遜色ない。大阪の取り組みは全国的にも注目されている。

 1月下旬、府立大阪わかば高校(大阪市生野区)を訪れたのは、文部科学政務官や同省幹部らだ。同校生徒の4分の1は日本語指導が必要な生徒だ。

 そのうち、卒業を迎えた生徒らが、学校生活や将来の夢について1人ずつ発言した。

 「人前で話すのが苦手だったけれど、この高校でやらされるようになって楽しくなった」

 「高1の時、日本人の友だちが声をかけてくれたのがうれしかったので、いまは自分から話しかけるようにしている。将来は先生になりたい」

 日本語は完璧と言えないまでも、笑顔で堂々と話す生徒が多かった。地元企業に就職する生徒もいれば、有名大学に合格した生徒もいる。

 大阪府立高校には、小学4年以上で日本に移り住んだ生徒を対象にした入試枠がある。01年に2校に設けられ、現在は大阪わかば高校を含む8校に広がっている。

 これら「枠校」と呼ばれる高校で、日本語の教育と共に力を入れているのが、各生徒の母語学習や母語を使っての教科学習だ。様々な言語の教員の確保は簡単ではないが、大阪大外国語学部などの協力も得て対応する。

 不得手な日本語だけで学校生活を送っていると、生徒は自信を失い、萎縮しがちだ。母語を使うことは、各教科の理解や論理的な思考を深めるだけでなく、日本語を学ぶ上でも役立つと考えられている。

 文科相の諮問機関、中央教育審議会も21年の答申で「これまで以上に母語、母文化の学びに対する支援に取り組むことも必要」だとしている。だが、大阪のように母語などを正規の授業に採り入れる例はまだ珍しい。

 ルーツに誇りを持たせる教育は、在日韓国・朝鮮人が多く「民族教育」を育んできた大阪の伝統でもある。大阪府立高校で日本語指導が必要な生徒の中退率は4・5%で、全国の半分ほどに抑えられている。学校が安心できる居場所になっている表れなのかもしれない。

 文科省によると、「日本語指導が必要な児童生徒」は23年5月現在、全国の公立小中高校で6万9千人余りで、この10年で倍増している。金城泰邦・文科政務官らは、大阪市立玉出中学で英語の授業を見学したり、同市立大池中学で「民族学級」に参加している韓国・朝鮮ルーツの生徒に話を聞いたりもした。金城氏は「ルーツを大事にしてきた子らが、ゆくゆくは日本と母国の交流や関係構築に貢献する人材になるだろう。しっかり支援したい」と話した。

 ただ、新たな課題も生じている。

 近年は、外国で中学を卒業して高校から日本に来る生徒が増えている。大阪など大都市では、調理人として来日したネパール人や、会社経営の在留資格を得た中国人の子が「家族滞在」の資格で来日する例が多い。

 ただ、日本語の課題が大きいのに加え、高校卒業後の進路が決まっていないと在留資格が不安定になる。大阪わかば高校の森山玲子教諭は「高校の3年間で進学や就職できるだけの力をつけてあげなければならないのです」と話す。

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