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サッカー日本女子代表(なでしこジャパン)で、パリ・オリンピック(五輪)にも出場したDF石川璃音(21)=三菱重工浦和レッズレディース=は、頭を覆うヘッドギアをつけて練習や試合にのぞんでいた時期がある。
なぜ、頭を守るのか、とたずねると「脳振盪(しんとう)の予防もかねて、つけていたんです」。
きっかけは、2024年10月。なでしこジャパンの活動だった。
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韓国との非公開の練習試合で、相手選手と頭同士がぶつかった。スタッフがチェックをしてもふらつきはなく、「まだプレーできる」という感覚もあった。
ただ、暫定監督として指揮をとっていた佐々木則夫・日本サッカー協会女子委員長に「無理するところじゃない」といわれ、交代した。
パリ五輪後、初めての代表活動。池田太氏が監督を退いたあとの新チームで、レギュラー定着に向けてアピールしたい思いはあった。だから、ベンチに下がってからも、「試合に出たい」と悔しくて涙が出た。
ただ、病院で脳振盪の疑いがあるという診断を受け、素直に受け止めた。
「自分が脳振盪の危険性を知っているから、無理はできないとやめた部分もある。頭のけがは本当に危ない。それを、みんなに知ってほしい」
身をもって感じたのは、中学2年生の夏のことだった。
JFAアカデミー福島の一員として出場した全日本U15選手権の準決勝。ヘディングをした際に後ろから相手選手にぶつかられ、倒れ込んだ。
「今、どこかわかる?」とたずねられても、記憶がない。シャワーを浴びると、頭を抱え込まないといけないほどの激しい痛みが襲った。
「脳振盪だから、決勝には出られない」
トレーナーにそう告げられ、泣いた。
脳振盪には、復帰するためのプログラムがある。6段階のトレーニングに1日ずつ費やすため、最低でも6日はかかる。そうした説明は頭では理解できても、気持ちを整理するのは難しかった。
「決勝の日も元気だったんです。だから『なんで、なんで?』って。でも、今思うと、本当に『止めてくれてありがとう』と言いたい」
大会が終わり、秋田県の実家に帰ると、止められた意味がわかった。携帯電話の画面やテレビの映像を見るだけで、頭に響く。気持ちが悪くなったり、立ちくらみしたりもした。
同じ時期に、脳振盪を繰り返して医師から「サッカーはもうできない」という診断をされたチームメートがいた。
「そのときに初めて、脳振盪は危ないんだ、サッカーができなくなるものなんだ、というのを学びました」
専門のスタッフがそろうJFAアカデミー福島では、ウォーミングアップで柔道の受け身の練習をするようになった。転んだときに頭のけがを防ぐためだ。
石川自身も、改めて脳振盪から復帰するためのプログラムを学んだ。練習中、頭を打ったチームメートを見かけたら、「1度(グラウンドを)出たほうがいい」と声をかけるなど、意識も変わった。
センターバックという競り合いが求められるポジションでトップ選手である以上、相手との激しい接触は避けられない。だからこそ、試合前はヘディングの練習をあえて多めに入れて感覚をつかんだり、事故を防ぐために声をかけあうようにしたりするなど、気を配る。
願うのは、脳振盪に関する理解が広がることだ。
自らもそうだったように、大事な大会や試合が近づけば近づくほど、選手はけがをしてもプレーをしたくなる。だからこそ、指導者やスタッフも含めて知識をつけ、「頭のけがは危ない」という認識を共有しておくことが大切だと考える。
「段階を踏まないとリハビリも危険だし、自分のように元気でも後から症状が出ることもある。めまいとか、ふらつきがあったら周りは止めてほしいし、病院に行くべきだということを知ってほしい」と訴える。