原爆ドーム前に「核と人類は共存できない」と訴えるキャンドルメッセージが浮かび上がった=2025年1月22日午後6時9分、広島市中区、上田潤撮影

 核兵器禁止条約の発効から22日で4年となった。米国では「力による平和」を掲げるトランプ氏が大統領に返り咲いたばかり。核をめぐる国際情勢が緊迫する中、米国の原爆投下から80年となる被爆地・広島は、その影響を注視している。

 22日夕、核兵器廃絶を訴えるキャンドルメッセージが広島市の原爆ドーム前にともった。市民団体「核兵器廃絶をめざすヒロシマの会」(HANWA)が企画。1500本のロウソクで「NUCLEAR & HUMANITY CAN’T COEXIST!(核と人類は共存できない!)」と呼びかけた。

 核兵器の使用だけでなく開発や保有、使用の威嚇なども全面的に禁じる核禁条約には、米国のような核保有国や、その「核の傘」に守られる日本などは参加していない。3月には米ニューヨークの国連本部で第3回締約国会議が開かれる。

 HANWA共同代表の森滝春子さん(85)は核禁条約について「発効したにもかかわらず、無視した国々が横行している。もっと手を強く結んで立ち上がらなければ」と話した。参加した広島県原爆被害者団体協議会(県被団協)の佐久間邦彦理事長(80)は「トランプ氏はアメリカファーストで、核兵器廃絶に目が向かないのではないか。核兵器禁止条約を巡っても(各国の)分断が深まるかもしれない。市民運動の連帯が重要だ」と話した。

 県被団協などは22日昼、広島市内で署名活動し、日本政府の条約署名を求めて声を上げた。副理事長で、原爆で両親を亡くした山田寿美子さん(81)は「トランプ氏が何をするのか予測がつかず、不安。核兵器廃絶への動きを邪魔しないでほしい」と話した。

 20日に就任式を終えたトランプ氏。政権1期目では、米ロ間で中距離ミサイルの保有を禁じた「中距離核戦力全廃条約」(INF条約)を破棄し、2019年に失効した。在任中は「力による平和」を掲げて核軍拡を進めた。2016年大統領選の共和党候補者指名争いの時期には、日本の核兵器保有を容認する考えを示唆。「もし日本に(北朝鮮による)核の脅威があるならば、(日本の核保有は)米国にとっても悪いことだとは限らない」と語った。

 昨年ノーベル平和賞を受賞した日本原水爆被害者団体協議会(日本被団協)の代表委員で、もう一つの県被団協の箕牧智之(みまきとしゆき)理事長(82)は「広島に来て平和記念資料館を見て、核兵器はいかんと、気持ちの変化が起きると良いんだが……。トランプさんはそういうことをしそうにない」と気をもむ。それでも、「今後に注目していきたい」と話した。

 広島市の松井一実市長は15日の定例会見で、トランプ氏について「柔軟な発想ができる可能性を持っている方」と述べ、被爆地訪問への期待を語った。

 トランプ氏の当選が確実となった直後の昨年11月、松井市長はオバマ氏、バイデン氏に続く「3人目の現職米国大統領による被爆地訪問の実現に向けて、長崎市とともに要請していきたい」とコメントを発表した。

 15日の会見ではトランプ氏について「ビジネスのように、相手の出方を見ながら政治決定をするというスタイルの方だと聞いている」と述べた。その上で、「現実問題を解決する時に、人類の理想を加味して判断すると長期的に役立つ。そういうお話ができたら」と話し、広島訪問を望んだ。

 市によると、両市はこれまでも米国大統領の就任や来日の時期に合わせ、被爆地訪問を求める書簡を送ってきた。トランプ氏に対する要請の時期や方法は現在、検討中だという。

 湯崎英彦知事は21日の定例会見で、「従来の大統領はやらないようなことをやるという特質もある。広島訪問が、発想の転換が起きるきっかけになり得るのではないか」と述べ、「ぜひ核兵器使用の現実を、広島、長崎に来て確認してほしい」と話した。県は20日付で、広島訪問を求める要請書を送っている。

平和記念資料館を訪れた米大統領らの記帳

カーター氏(1984年、大統領退任の3年後)

「この記念館は、すべての人々が平和とより良い理解に向けて努力することを、絶えることなく永遠に思い起こさせるものでなければならない」

オバマ氏(2016年、現職初)

「私たちは戦争の苦しみを経験しました。共に、平和を広め核兵器のない世界を追求する勇気を持ちましょう」

バイデン氏(2023年、G7広島サミットに際して)

「この資料館で語られる物語が、平和な未来を築くことへの私たち全員の義務を思い出させてくれますように。世界から核兵器を最終的に、そして、永久になくせる日に向けて、共に進んでいきましょう。信念を貫きましょう!」

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