時間とは何か――。この深遠にして哲学的な問いに挑んだ映像作品を、シンガポールの美術家ホー・ツーニェンさん(1976年生まれ)が、東京都現代美術館での大個展で発表している。時間を巡る映像の断片が次々に連なる表現は、壮大な叙事詩ともいえる構えの大きさを備えている。
詩的なナレーションやサクソフォンの調べが流れるなか、11世紀の中国の水時計や18世紀英国の航海用の時計、西暦と中国の暦が併記されたシンガポールの日めくり、韓国の民主化運動といった歴史や暮らしに関わるものから、カゲロウの一生や蛇の脱皮、光子といった科学的なものまで、時間を巡る多様なエピソードを表現した映像が次々に登場する。
最新作「時間(タイム)のT」(2023年)は、前後に配された2面のスクリーンの奥には実写映像が、手前の半透明のスクリーンには、その映像をアニメ化したものが投影されるのが基本形だ。高度経済成長期の日本の家族の日常を捉えたホームビデオの映像も素材となっている。
これまで東南アジアや日本の歴史、思想を扱う映像作品を手掛けてきたホーさんは会見や講演で、「映像作品はもともと時間がベースにある」「時間を巡る映像を作れば、時間とは何かの答えを見つけられると思って始めた」と明かした。
「時間は人間の記憶にも関わ…