JR新宿駅の南口を出て驚いた。ここから、以前はもっとよく見えなかっただろうか――。「NTTドコモ代々木ビル」(東京都渋谷区)に設置された大時計のことだ。バスターミナル「バスタ新宿」ごしにチラリとしか見えないその姿に、少しのさみしさを感じた。

 旧国鉄の新宿貨物駅跡地に代々木ビルが竣工(しゅんこう)したのは2000年9月。携帯電話の利用者が1990年代半ばから爆発的に増え、99年2月にはiモードのサービスが始まった。安定的な通信環境を確保するため、都市部の地上200メートルの高さに通信アンテナを設置する必要が生じていた。

当初「世界一」の時計台、いまどこから見える?

 その設計に携わり、今はNTTファシリティーズの営業部門長を務める辻本昌弘さん(53)は「だからといってただの鉄塔を屋上に建てる形では、都市の景観になじまない。そこで塔と建物を一体化して建てることになった」と振り返る。

 大時計は2002年10月、NTTドコモが営業開始から10周年を迎えるにあたって設置された。当初はデジタル化で進歩する通信ネットワークを象徴するよう、デジタル時計をつける話もあった。だが、「より景観になじみ、ドコモを身近に感じてもらえるものにしたいと、時計台のイメージで、文字盤にローマ数字を用いたアナログ時計が採用された」(辻本さん)。

 新宿駅方面からよく見えるように、直径約15メートルの大時計が、地上から約150メートルの北側壁面に設けられた。その時点で、世界一の高さを誇る時計台だった。

 10月下旬、新宿駅南口周辺を歩いた。いくつもの建物に遮られ、埋もれ、大時計はなかなか見えなかった。ビルの姿をはっきりと捉えられたのはバスタ新宿の歩行者デッキ。思い思いに過ごす人たちの多くがスマホに目を落としていた。いまや時刻は、スマホで知ることが多くなった。

「いまやスマホで時間を知れるが、時計台はまちの風景として定着した。地元や新宿かいわいを訪れる方々にとって、あることが当たり前の存在になっている」とNTTドコモのインフラデザイン部担当課長、中井理貴さん(51)は言う。高さで海外のビルに抜かれたものの、日本一の座は守っている=東京都渋谷区

札幌の時計台、誰が時計をつけろと言ったのか

 動きだして140年以上が経つのだから無理もなく、当初立っていた場所より約130メートル南西に移動した国内最古の時計台「札幌市時計台」(札幌市中央区)も、やはりビルに埋もれていた。

 JR札幌駅から歩いて10分…

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