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神里達博さん

神里達博の「月刊安心新聞+」

 映画「シビル・ウォー アメリカ最後の日」が来週、日本でも公開となる。原題は「Civil War」で、直訳は「内戦」だが、定冠詞をつけて大文字で書けば米国では「南北戦争」のことを指す。実際、米国での封切りは4月12日だった。南北戦争が勃発した日である。すでに欧州やアジアなど世界各国で上映され興行収入の総額は1億2261万ドル(約176億円)に達したという。

 それにしてもなぜ日本では洋画の公開がこれほど遅れるのだろうか。この作品も4月末までに世界の主要な六十数カ国で公開されている。なんとウクライナやロシアでも、4月に上映を開始している。例外的に中南米の4カ国と台湾が5月に、また中国では6月に公開されたようだ。だが日本だけが単独で半年遅れだ。一体何が原因なのか。不思議である。

 さて、監督のアレックス・ガーランドは英国出身の多才なクリエーターである。ゾンビホラー映画の「28日後…」で脚本家としてデビュー、2014年にはSFスリラー「エクス・マキナ」で脚本と初監督を務めた。この作品はアカデミー賞視覚効果賞を受賞している。

 今回の「シビル・ウォー」は、分断が進む米国の近未来を描いた作品として、公開前からかなり話題になっていた。私も関心があったが、半年待つのはつらい。そこで、自分でブルーレイディスクを購入し、一足先に自宅で視聴した次第である。

 まずは、あまり「ネタバレ」にならない範囲で概要を説明したい。アメリカの国土はすでに大きく四つのグループに分裂しており、「3期目」を務める大統領は諸州の分離独立運動に悩まされている。特にカリフォルニアとテキサスから成る「西部軍」が強力で、ワシントンDCの連邦政府に迫ろうとしている。そんな状況下のマンハッタンで、ジャーナリストのグループが、追い詰められた大統領にインタビューをするという、無謀な計画を立てる。

 ベテラン戦場カメラマン、ロイター通信とニューヨーク・タイムズのジャーナリスト、そして報道カメラマン志望の若手の4人が、「PRESS」の文字が記されたバンに乗り込み、秩序の崩壊したアメリカを首都に向けて出発する。

 途中、さまざまなタイプの暴力に満ちた世界を経由していく。それはまるで「不思議の国」を巡るダンジョンゲームのようでもある。

 加えて、このロードムービーの物語の軸に据えられているのは、意外にも「若手カメラマンの精神的な成長」である。だがそれは「どんな状況でも人は成長できる」というような前向きなものではない。もっと薄暗い、不気味な何かなのだ。

 全体を通して、私が少し気になったのは、分かりやすい政治的対立の構図が、周到に「消去」されているという点である。

 たとえば、カリフォルニアと…

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