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シートを押して感触を確かめる高野修さん。その目つきは厳しいが、後輩に指導するときは穏やかな口調だ=東京都青梅市、工藤隆太郎撮影

凄腕しごとにん 高野修さん(53)

タチエス Technologyマネージャー

 ドライブの快適さを左右する自動車のシート。最新技術を駆使して機械で開発しているのかと思いきや、最後は人が評価する。そんなシート研究に20年近く携わり、日本一売れているホンダ「N-BOX」を含む約200種類のシートを開発・評価した「座り心地エキスパート」だ。

 自動車用シートの開発から製造まで手がける「タチエス」(東京)で働く。研究室は計器やパソコンが置かれた無機質なつくりで、中央に評価対象のシートを固定する。座面を横や正面からじっと見つめてから、腰を落とすように座る。両手を胸の位置まで上げ、目の前にはないハンドルを回したり体をひねったりするしぐさを繰り返す。

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シートのたわみなどを評価してデータ化する機械=東京都青梅市、工藤隆太郎撮影

 シートづくりにおいて、座り心地の評価は開発の核となる。機械で測ってデータで表せる部分もあるが、人間の感覚は機械より優れているという。最後は人が座り、感覚を使った「官能評価」を行う。従業員はグループ全体で1万人超いるが、評価できるのは3人で、そのリーダーを務める。

 「座り心地」というと抽象的な印象を受けるが、評価では「疲れにくい」や「柔らかい」といった感覚を数値や言葉に落とし込んでいく。その際、「自分の好き嫌いでは絶対に判断しない」。異なる好みや価値観を持つ顧客の「平均」を想定して脳内に物差しをつくり、自分の背中やお尻の感覚をそこに合わせて評価する。

日産から来た師匠との出会い

 ものづくりに興味があり、約…

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