写真・図版
文化人類学者の川田順造さん=2014年撮影

 文字を持たない社会の研究や「文化の三角測量」といった、文明社会を相対化する視座に立つ研究で知られた文化人類学者で東京外国語大学名誉教授の川田順造(かわだ・じゅんぞう)さんが20日、誤嚥(ごえん)性肺炎のため死去した。90歳だった。葬儀は近親者で営む。

 1934年、東京生まれ。東京大学で文化人類学を学び、フランス・パリに留学。著名な文化人類学者で「構造主義の祖」として知られるクロード・レヴィ=ストロースに学んだ。彼の重要著作「悲しき熱帯」を翻訳し、日本に紹介した。

 旧モシ王国(現ブルキナファソ)を中心に通算9年以上をアフリカで暮らし、「未開」と表現されるような文字を持たない社会の豊かさを著作に描いた。太鼓によって歴史を伝承する社会に着目し、語りや音楽などによる非文字コミュニケーションの機能を明らかにする「口頭伝承論」の領域を切り開いた。

 「文化の三角測量」と題して、日、仏、モシ王国という三つの文化を比較研究し、ヒトや社会を複眼的にとらえた。現代の文明社会や日本の文化に関する固定観念を、揺さぶる視点を提起し続けた。生まれ育った東京の下町の文化に関する著作もある。

 東京外国語大学、広島市立大学の教授などを歴任。2009年文化功労者、10年瑞宝重光章、21年文化勲章。著書に「曠野から」(日本エッセイスト・クラブ賞)、「無文字社会の歴史」「聲」(藤村記念歴程賞)、「口頭伝承論」(毎日出版文化賞)、「母の声、川の匂い」「レヴィ=ストロース論集成」ほか。

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