法哲学者の安藤馨・一橋大学教授

「憲法季評」 安藤馨・一橋大学教授(法哲学)

 2023年の終わりごろから政治資金規正法の話題がかまびすしくなって久しい。様々な問題が報じられる中で同法の改正提案を巡って「連座制」という語を久々に耳にした読者も多いのではないだろうか。なんとはなしに不吉さを帯びる(はずの)この語が肯定的に語られる政治状況を手がかりとして、日本の民主政の問題の一端について考えてみたい。

 連座制とは一定の犯罪について、その犯罪行為に関わっていない者についても、犯人と特定の人間関係にあることを理由として制裁が科されるという制度である。だが、犯罪の責任とそれに基づく制裁は、当該の犯罪を自由な意思によって引き起こした個人にのみ帰せられるものである。連座制はこの個人責任の原理に反するものとして極めて否定的な評価を受け、実際にも我が国には原則として存在していない。

 だが、この種の制度が人々になんらの後ろめたさも感じさせることなく現に採用されている稀(まれ)な領域が「政治」である。現行の公職選挙法では、候補者の関係者が買収等の重大な選挙犯罪で有罪判決を受けそれが確定した場合に、候補者本人がなんら関与していなかったとしても当選が無効とされ、当該選挙区からの立候補が5年間禁止される。だが、選挙犯罪の犯人本人に公民権停止などの制裁が科されるのは当然としても、関与していない候補者も類似した扱いを受けるのはなぜだろうか(なお暗黙のものを含め候補者からの指示がある場合には、候補者本人が共謀共同正犯として端的に刑事責任を負うのであって、そもそも連座制の問題ではない)。

 まず、候補者が一定の関係者…

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