左投げ捕手の夢野台の城戸柾輝主将=2024年7月6日、淡路、森直由撮影
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 (6日、第106回全国高校野球選手権兵庫大会1回戦 夢野台4―0豊岡総合)

 三回に初安打となる二塁打を打たれた直後、夢野台の捕手の城戸柾輝主将(3年)は、マウンドの投手に駆け寄った。「一塁が空いているので、四球でもいい。落ち着いていこう」。この試合、2投手をリードし零封した。

 城戸主将は「左投げの捕手」だ。昨秋までポジションはセンターで、捕手をしたことはなかった。

 昨年9月中旬、秋の大会で敗れた後。前原克泰監督から提案された。「捕手をやってみないか」。前原監督は「肩が強く、野球をよく知り、的確な指示ができる。外野手よりも捕手の方が向いている」と考えていた。

 「左投げなのに、捕手をしてもいいのか。困惑しました」。考えた末、挑戦してみることに。最初はボールを後ろにそらしたり、うまく捕球できなかったりするミスが続いた。だが練習を重ねるうちに上達。約1カ月後、「捕手でもいけるかもしれない」と感じた。

 最初に練習したのは、三塁への送球だ。右投げの捕手が一塁に投げるのと反対の動き。捕球した後、しっかりとステップして、体を三塁方向にひねらないと力強い送球ができない。練習試合では相手チームに三盗をよく狙われた。だが、練習を繰り返して克服した。

 次の課題は、本塁でのクロスプレーだった。三塁から本塁へ滑り込んでくる走者へのタッチは、左手にミットをはめている右投げと比べて、どうしても遅れてしまう。何度も練習をしたが、「どうしても右投げにはスピードでは勝てない。もう仕方がない。割り切ろう」と決めた。

 反対に、左投げのメリットが分かった。右投げよりも一塁へ投げやすく、捕手からの牽制(けんせい)で一塁走者を刺せるようになった。二塁送球は、左腕を振りづらい右打者ばかりではないから関係ないと思えた。

 捕手になってから約10カ月。「左投げの捕手だ」と相手校から驚かれることにも慣れた。左投げのハンディを感じることもなくなった。

 この夏の初戦を突破した。試合後、「捕手になってから周りをよく見る力がついた。センターではできない経験ができて良かったです」と振り返った。前原監督も「よく成長してくれた。この1勝は彼のおかげです」とたたえた。

 次の相手は2021年春の選抜大会に出場し、足を絡めた野球で知られるシードの東播磨だ。「おそらく盗塁を狙われると思うけれど、絶対に刺して流れを変えたい。自分の力がどれだけ通用するか楽しみです」と笑みを浮かべた。(森直由)

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