東京拘置所。死刑が執行される刑場はここを含め全国に7カ所ある=東京都葛飾区

記者解説 論説委員・井田香奈子

 死刑とはどんな刑罰で、なぜ続いているのか。死の恐れと直面し心を病んだ袴田巌さんの姿に、思いを巡らした人は多いだろう。

 先進国のほとんどが20世紀後半以降、死刑を廃止している。刑罰はそれぞれの国の社会に根ざし、国際ルールに拘束されるわけではない。ただ、国家が刑罰として人命を奪うことには根源的な疑問が伴い、続けるのであれば説明責任が求められる。

 日本の現在の死刑制度は、その方法を絞首刑とした1882(明治15)年施行の旧刑法に由来し、戦後に引き継がれた。執行手続きの根拠は、1873年の「太政官布告」にさかのぼる。

 明治の規定がなお効力をもつのと対照的に、制度を取り巻く状況は変化してきた。顕著なのは廃止の国際的な潮流だ。1990年に46だった廃止国は2023年には112に。制度はあるが執行しない事実上の廃止国も加えると、国連加盟国の7割を超える。

 これらの国でも、大量殺人といった処罰感情をかきたてる犯罪は起きている。憎むべき罪を犯した人であっても、命を国家が絶つことは許されないという見地から、死刑のない社会を実現してきた。

 刑罰の目的も応報刑から教育刑へと重心が移っている。刑が「報い」なら、人を殺した者は生命で償うことが肯定され、実際に「目には目を」で処罰する国もある。しかし、日本の司法制度はそうした考え方はとっていない。

ポイント

 かけがえのない個人の生命を国家が奪う。戦争と死刑ではそれが正当化されてきた。先進国が死刑を廃止・停止したなか、日本と米国の一部の州は執行を続けている。刑罰は「報い」の面だけではとらえられない。現代にかなう最高刑を議論するときだ。

 今年6月には懲役・禁錮刑を…

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