エミー賞やゴールデングローブ賞の受賞で話題になったドラマ「SHOGUN 将軍」。第1話の序盤、大坂城の櫓門(やぐらもん)に飛び込む1羽の鳩(はと)が映し出される。
鳩の脚には紙片がくくりつけられていた。そこに書かれた内容から、真田広之さん演じる主人公・吉井虎永は、英国人航海士らの伊豆への漂着をいち早く知る――。
この時、関ケ原の戦い前夜の西暦1600年という設定。虎永のモデルは徳川家康という。だが家康の生きたこの時代の日本に「伝書鳩」がいたかどうか。伝書鳩という通信手段がこのころ既にあったなら、歴史上のいくつかの場面は変わっていたのではないだろうか。
実は、伝書鳩の利用が日本で初めて文献史料に現れるのは江戸時代も後半に差し掛かるころだ。
それは大坂の堂島米市場を舞台に行われた先物取引のためだった。1783(天明3)年3月に出された大坂町奉行による触書(ふれがき)に、伝書鳩は登場する。
米価を伝える商人たちの「情熱」
相模屋又市という米商人はそれまで「堂嶋米相場之高下」を飛脚を使って伝達していた。だが「抜商(ぬけあきない)」と称し、相場情報を「鳩之足に括付相放し」て伝えるようになったと触書は記す。
大坂町奉行はその行為を「不埒(ふらち)之事に候」と断じ、このようなことをする者がいれば召し捕らえるから、「心得違」することないよう――と通達するのだ。
「大坂堂島米市場」(講談社…