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上映前、観客から拍手を送られる五十嵐耕平監督=8月28日、イタリア・ベネチア
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 28日に開幕した第81回ベネチア国際映画祭で、革新的な作品を集めた部門のオープニング上映に、はじめて日本映画が選ばれた。無名だった俳優2人が、国際的な注目を集めつつあった気鋭の監督を誘って、5年がかりで一緒に作り上げた作品。タイトルは「SUPER HAPPY FOREVER」だ。

 28日夕方、イタリアのリド島の会場。映画祭が幕を開けたその日、「ベニス・デイズ部門」の中で先頭を切って上映された。

 エンドロールが流れると満場の拍手に包まれ、五十嵐耕平監督にサインや写真撮影を求める観客の列ができた。批評サイト「ロッテントマト」では「繊細で控えめだが、非常に複雑な愛の物語」と賛辞が贈られた。

 この作品が生まれたきっかけは、1通のメールだったという。2018年末のある夜、自宅で仕事をしていた五十嵐監督は、そのメールに気づいた。経営する映像制作会社のアドレス宛てに届いていた。

 〈今、僕達2人は、映画を一から作り上げようと思っています〉

 送り主は、名前も見覚えがない俳優2人。五十嵐監督の過去作に感動した、自分たちと映画を作ってほしい、という内容だった。五十嵐監督は当時、フランスのダミアン・マニベル監督との共作「泳ぎすぎた夜」(17年)がベネチア映画祭の公式部門で上映されるなど、すでに国際的に評価されていた。

 「俳優からメールをもらうことはあるが、『映画を作る』というメールは初めてだった」

 興味を持った五十嵐監督は年明け、東京・渋谷の喫茶店でさっそく2人と会うことにした。

 佐野弘樹さんと宮田佳典さん。2人は日本の映画祭を通じて出会い、意気投合した。当時は2人とも映画の出演経験がほとんどなかった。

 「目標が欲しかった。自分たちの代表作を作ろうと思った。2人とも五十嵐監督の作品が好きだった」。宮田さんは、監督をメールで誘った経緯をそう振り返る。

 会話するうち、五十嵐監督は2人のまっすぐな性格にひかれた。2人の出演作を見たこともないが、「私的な良い関係を築ける人たちで、一緒に映画を作り上げることが一番楽しい。心意気さえあれば誰でも構わない」と、その場で映画作りを快諾した。

 「温めている企画はあります…

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