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ランチのお客を迎えるため、「かたくりの宿」の入り口付近の雪かきをする小野寺雅彦さん=2025年2月23日、新潟県津南町結東、茂木克信撮影
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 新潟県内有数の豪雪地の津南町。そんな町の中でも特に雪深い、長野県境の秋山郷にある結東(けっとう)温泉の小さな宿に、移住1年目の調理スタッフがいる。東京都府中市出身の小野寺雅彦さん(40)。記録的な大雪に「疲れはありますね」と言いつつ、春に向けて楽しみにしていることがある。

 かたくりの宿は、1884(明治17)年に開校し、1992年に廃校となった小学校を改築し、93年にオープンした。教室があった場所は和室7部屋に、校長室があった場所は温泉の内風呂にそれぞれ姿を変えた。

 そんな宿の調理スタッフに2024年4月、小野寺さんが加わった。

 大学院でバイオテクノロジーを用いた微生物と酵素の研究をした小野寺さんは、大阪の食品会社に就職し、菓子や健康食品などの開発を担当した。仕事に不満はなかったが、食材を扱ううちにそれを作る人たちの気持ちが知りたくなり、20年4月に会社を辞めた。35歳だった。

 それから、全国各地を旅しながら住み込みで働く生活を続けた。京都府和束(わづか)町の宇治茶の生産者を皮切りに、山形県朝日町のコメ農家、鹿児島県長島町のブリの稚魚を捕る漁師、北海道豊浦町のホタテ漁師、岐阜県郡上市の林業農家…。その土地の食文化に触れるため、地元食材を使って自炊したり、郷土料理を食べたり教わったりした。約3年半の間に1カ月以上滞在した場所は、20カ所に上る。その中に、かたくりの宿もあった。

 旅から戻って府中市の実家にいた23年12月。かたくりの宿から「調理スタッフとして働かないか」と連絡が来た。

 あと半年で40歳になろうとしていた。年齢や資金面から落ち着いて働ける移住先を探していたときだった。誘いを受けることにした。

 「同じ行くなら、秘境にしよう」

 結東地区にはコンビニエンス…

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