大洋デパート火災の民事裁判記録が寄贈された熊本学園大学で、記録の保存・活用について考えるシンポジウムが開かれた。
1973(昭和48)年11月に発生し104人が犠牲になった火災では、遺族が翌年5月、損害賠償を求めて提訴。76年3月に和解が成立したものの、大洋は事実上倒産。更生計画で遺族への補償が優先されることになり、81年4月に支払いが完了するという経過をたどった。
遺族側弁護団で事務局次長だった松本津紀雄弁護士(82)がこの一連の裁判記録を熊本学園大に寄贈した。
7日にあったシンポでは、著名な裁判の記録を調べてきた東京の嘉多山宗弁護士が「和解で終わった裁判や、会社更生をめぐる記録が残っていることはきわめて少ない」と指摘。さらに、和解を勧告した糟谷忠男裁判長が、NHKの連続テレビ小説「虎に翼」の主人公のモデルとなった三淵嘉子裁判官と家庭裁判所で同僚だったことを紹介。「判決を出せば控訴されて、解決が長引くと考えたのではないか」との見方を示した。
歴史に詳しい熊本学園大の矢野治世美・准教授は、中央防災会議がまとめた冊子「災害史に学ぶ」にある火災は、江戸時代の明暦江戸大火と1976年に山形県で起きた酒田大火の二つにとどまると指摘。「建物火災の記録は意外に少ない。被害の悲惨さを伝え再発防止を進めるためにも、裁判記録は貴重だ」と話した。
憲法学が専門の独協大学の岡田順太教授は、米国で裁判記録のアーカイブ化が進み、政府だけでなく大学や民間団体も保存・公開をしている現状を紹介した。
学園大は裁判記録を付属図書館で保管中。シンポで出た意見も参考に公開方法を検討していく。