昨秋の関東大会準々決勝、つくば秀英を完封した浦和実のエース石戸颯汰

 細身の左腕がひょうひょうとした表情で、直球を投げ込んでいく。球速はおおむね120キロに満たないが、不思議と打たれない。

 昨秋の関東大会準決勝。のちに明治神宮大会を制する横浜(神奈川)を苦しめたのが、浦和実(埼玉)のエース石戸颯汰(3年)だった。1点差で惜敗したが、8回3失点に抑えた。

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 特徴は独創的な投球フォーム。右足をあご付近にまで上げて始動。勢いをつけてくると思いきや、テイクバックは腰を引いて沈む。右手のグラブでぎりぎりまで隠した左腕を、真上から振り下ろし、80~120キロの4球種を散らした。

 「今まで見たことない」と横浜の村田浩明監督を驚かせ、主将の阿部葉太(3年)を「ボールの出どころが見えない」と苦笑いさせた。

 「自分的には結構ラッキーだと思った」。石戸がそう言うのは、昨春に導入された低反発の新基準バットのことだ。

 長打が大幅に減り、ロースコアの展開が増えた。昨夏の全国選手権では、本塁打数が前年の23本から7本に減った。

 石戸は「捉えられてもそうそう長打はない」と割り切れるようになった。全国クラスの打者に対してもストライクゾーンで勝負し、勇気をもって内角を突く。埼玉県大会で強豪の浦和学院を2安打完封し、関東大会でも1完封。「緩い球のほうが飛ばしづらいのかも」という実感は、日に日に確信に変わっていった。

 野球を始めた小学1年のころから、体の線が細かった。打者を圧倒する球威はない中で、どう勝つか。打者のタイミングを外す方法を、ずっと模索してきた。軟式野球部だった中学1年のころ、「自然と」今のフォームにたどりついた。

 昨秋の公式戦は62回と3分の2を投げて、防御率は0・72。関東4強、そして春夏通じて初の甲子園出場の原動力となった。チームの9勝のうち、6試合が2点差以内。守備陣は「取れるアウトをしっかり取る」意識を徹底し、10試合7失策の堅守でエースをもり立てた。

 目標はベスト8に定めた。石戸は「自分は緊張しないし、初出場も意識しないですね」とさらり。

 甲子園では150キロの投手も珍しくない時代。低反発バットを味方につけた左腕が緩いボールで強打者を打ち取っていく姿は、きっと爽快だろう。

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