福岡県久留米市教育委員会が7月に開いた人権・同和教育の夏期講座で、講師が事前に送付した資料を、市教委が参加者に持参させなかったことがわかった。資料に被差別部落の地名や賤称(せんしょう)が記されていることを理由に、講師に相談しないまま市教委が判断したという。
講師は、部落問題の歴史を研究する黒川みどり静岡大名誉教授(日本近現代史)。黒川さんや市教委によると、講座は市立小・中学校、高校などの教職員全員を対象に7月31日の午前と午後の2回、市内の石橋文化ホールで予定され、教職員約1700人のうち約1600人と、市職員ら教職員以外の16人が受講した。しかし、黒川さんは午前の講演後、資料が参加者の手元にないことを知り、「断りなく資料が配布されなかったので講演できない」として午後の講演を打ち切った。
資料は写真や図表を使い、部落問題の歴史などをまとめた40ページの内容で、7月初めに市教委が受け取ったデータを参加者に送り、各自印刷して持ってくることになっていた。だが7月29日になって、持参しないよう市教委が指示したという。
抗議を受け、市教委は黒川さんに文書で謝り、参加した教職員にもおわびの文書を配った。
市教委は朝日新聞の取材に、資料に被差別部落の地名や賤称が記されていたため、受講者が紛失したり置き忘れたりして散逸することを懸念し、持参を控えさせたと説明。「研修内容や資料内容に異を唱える意図や研究成果を否定する意図は一切ありません」と答えた。
黒川さんは「部落差別を教員に学んでもらうために、用語の説明は欠かせない。講師に相談なく資料の内容を検討し、持参させないと決めたことは検閲にあたり、学問の自由の侵害だ。差別語であると講演で説明しており、差別を助長するものではない。リスクを想定して用語の使用を避けることは、部落問題を避けて何も語らないことにつながる」と話している。(編集委員・北野隆一)