「認知症の両親をひとりで抱えている。毎日が戦争だ……」
朝日新聞の「ひととき」欄にそんな書き出しの投稿が掲載されたのは2011年11月だった。投稿したのは、兵庫県伊丹市の小倉知子さん(65)だった。
当時80代の両親はいずれもアルツハイマー型認知症と診断され、実家で同居する小倉さんが介護していた。
小倉さんは、介護のために40代半ばで仕事を辞めた。しばらく休んで父と母の世話をしようという軽い気持ちだった。
だが結果として在宅介護は18年続いた。
優しかった母が
娘思いの優しい母だった。
ひなまつりの頃、「この子がなかなか嫁にいかへんのは、ひな人形がないからや」と言い、夫婦びなの人形を買ってきてくれたこともあった。
しかし認知症の症状の進行は早かった。「私はあなたのお母さんじゃない。子どもは産んでない」と言うようになった。
言動も別人のように変わった。
両親の金銭管理が危うくなったため、小倉さんが通帳を預かっていた。
母は「あんたが勝手に使っているんやろ」と疑い、「通帳をだせ」と小倉さんを責めた。ときには不在時に小倉さんの部屋に入り、机や鏡台の引き出しをあけて通帳を探し回ることもあった。
小倉さんが帰宅すると、鏡台に「どろぼう」「お前は家から出ていけ」などと書かれたメモ用紙がはりつけてあった。
危害を加えられると思ってい…