衆院長崎3区補選も終盤を迎えた4月26日夜、長崎市内の居酒屋。カウンターの一番奥に、自民党を離党した谷川弥一前衆院議員(82)の姿があった。
地物のイワシの刺し身や、好物のらっきょうの漬けものをあてに、生まれ育った長崎県五島市の酒造所で造られた芋焼酎の水割りのグラスをかたむける。
「おいしいねぇ」とかみしめるように言った。表情には少しの疲れと寂しさが見える。
店の奥に置かれた小さなテレビから、補選の様子を伝えるニュースが流れた。
谷川氏はグラスを置き、補聴器を調整しながら食い入るように画面を見つめた。
「もう変えんば」。声の主は、2021年衆院選で接戦を演じた立憲民主党の山田勝彦前衆院議員(44)だった。
「政治を変える」と訴える、かつてのライバルの姿を見ながら、谷川氏は「ちっ」と舌打ちをして「何を変えるのかまったく分からん」。そして、グラスを見ながら、こうつぶやいた。
「議員を辞めたのは今年の1月だったのに、かなり昔のことのようにかんじるなぁ」
「偉くなりたい」と集め続けた金
昨年12月、自民党安倍派の政治資金パーティーをめぐる問題で、谷川氏が、直近5年間で4千万円超を裏金としてキックバック(還流)を受けていた、と報じられた。
殺到する報道陣を前に「刑事告発を受けている案件でもあり、事実関係を調査確認して適切に対応してまいりたい」とコメントを読み上げた。
それでも質問を重ねられ、「頭悪いね。質問してもこれ以上、今日は言いませんと言っているじゃないの」といらだった様子をみせた。この発言が火に油を注いだ。
地元の有権者からは「裏切られた」「長崎の恥」などと厳しい言葉が出た。
今年1月19日、4355万円を自身の政治団体の収支報告書に寄付として記載しなかったとして略式起訴され、議員を辞職した。
3日後、大村市で開いた辞任会見は2時間弱に及んだ。裏金問題での派閥の指示や自身の判断について、「私が悪い」「言わない」「すみません」と繰り返し、詳細な説明を避け続けた。
一方で、「金を集める力は、政治家にとって偉くなるために必要なことだと思っていた」とも語った。
そのうえで、派閥への不満をこう表現した。
「俺が死んで、派閥がなくなったと思えば、心の慰めになる」
この言葉には、党最大派閥の不祥事に関して党や派閥の幹部が責任をとらないなか、自分だけがトカゲのしっぽのように切り捨てられる、という悔しさがにじんでいるようだった。
行動力と剛腕 しかし派閥内では不遇
辞職後も周囲に「車のスピー…