2年前の北京冬季五輪が閉幕した直後、ロシアはウクライナへの軍事侵攻を始めた。
「心配しないで。安全な軍事作戦だから。私たちがあなたを守る」
翌日、ウクライナのアーティスティックスイミング(AS)代表のマリナ・アレクシーワ(23)のスマートフォンに、ロシア代表の女子選手からメッセージが届いた。ロシアとの国境に近い、東部のハルキウにいた。11階建ての自宅マンションの窓からは、オレンジ色に燃える住宅街が見え、戦闘機の爆音が聞こえた。
「何を言ってるの? あなたたちは民間人を殺しているのよ。学校、教会、民間人の家。全てが爆撃された」
被害を受けた住宅やプールの写真と一緒に返信した。
「お金が必要だったら送るわ」
1週間後に再び届いたメッセージに、マリナは「私たちが欲しいのはお金じゃない。ただ戦争をとめて欲しいだけ」と憤った。「多くのロシア人はプーチン政権のプロパガンダを信じている」。それ以降、ロシア選手全員のメールをブロックした。
マリナとデュエットを組む双子のウラディスラワ・アレクシーワは「侵攻前は大会で会えば『こんにちは、元気?』とあいさつをするくらいの関係だったけど、今は完全に関係を終わらせた。言葉も交わしたくない」と話す。旧ソ連時代の影響で、ハルキウでは姉妹と同じくロシア語を母語とする人が多いが、侵攻後、姉妹はウクライナ語を使うようになった。
スーツケースに詰めた東京五輪のメダル
侵攻から約2週間後、代表チ…