インドの資産家ゴータム・アダニ氏を襲う信頼感の危機が深刻化している。同氏が率いるアダニ・グループは重要な公募増資を乗り切ったものの、米空売り投資家ヒンデンブルグ・リサーチが指摘した不正疑惑に端を発したグループ企業の株式への売りは止まらず、急速にメルトダウンの様相を呈し始めた。
1日のインド株式市場では、午後に入りアダニ・グループ各社の株価の下げが加速。クレディ・スイス・グループがアダニ・グループ傘下企業の社債をプライベートバンキング部門顧客のマージンローンの担保として受け入れることを停止したと、ブルームバーグが報じたことが背景にある。
クレディSのプライベートバンク、アダニ債のマージンローン停止
1月31日に25億ドル(約3200億円)の増資を完了したグループ中核企業のアダニ・エンタープライゼスは一時34.7%安。グループのドル建て債も上げを縮小した。
この株価下落はヒンデンブルグ・リサーチが主張する不正会計疑惑に加え、環境エネルギーやメディアにまで急速に手を広げたアダニ・グループの債務負担についての懸念が強まっていることを示唆する。グループ全体で時価総額が930億ドル減少したことを受け、バークレイズなどの銀行は10億ドルの融資について株式の追加担保差し入れを求めたと、ブルームバーグは報道した。
ムンバイを拠点とするターゲット・インベスティングの創業者サミア・カルラ氏は「クレディ・スイスのとった措置が報じられた後、アダニ・グループ株式への警戒が強まった」と指摘。「グループがさらに成長する上で、これは資金面の障害になり得る」と述べた。
アダニ氏、アジア一の富豪の座失う
この株価下落で、ゴータム・アダニ氏(60)はアジアとインドで保有資産が最大という称号を失った。
アダニ氏は昨年だけで資産を440億ドル膨らませたが、わずか1週間でこの全てを失い、資産の減少はさらに続いている。ブルームバーグ・ビリオネア指数での番付は毎日のように転げ落ち、1日にはライバルのインド富豪ムケシュ・アンバニ氏を下回った。
1日の市場でアダニ氏傘下企業の株価は全て下落し、アダニ・エンタープライゼスは28%安で取引を終了。アンバニ氏の純資産810億ドルに対し、アダニ氏は約720億ドルに減少した。昨年2月に短期間アジア一の富豪となり6月にはその座を確実にしていたが、31日終値時点でアジアでは第10位となっていた。

ムケシュ・アンバニ氏
Photographer: Prakash Singh/Bloomberg
原題:Adani Stock Drop Spirals Into Meltdown as Losses Hit $92 Billion(抜粋)
Adani Loses Asia’s Richest Spot to Ambani After $12 Billion Rout(抜粋)