「AWSがブロックチェーンに戦略的投資を行わなかった理由」をAWSの元ヴァイスプレジデントが明かす – GIGAZINE

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メモ



分散型台帳管理システムである「ブロックチェーン」は、仮想通貨の登場によって世間に広く知られるようになりましたが、2022年にはオーストラリア証券取引所がブロックチェーンシステムへの移行をキャンセルするなど、身近なところまでブロックチェーン技術が浸透するには至っていません。そんな中、Amazonのクラウドコンピューティングサービス・Amazon Web Services(AWS)の元ヴァイスプレジデント兼上級エンジニアであるティム・ブレイ氏が、「2016年にAWSがブロックチェーンへの戦略的投資をしないと決めた理由」について明かしています。

ongoing by Tim Bray · AWS and Blockchain
https://www.tbray.org/ongoing/When/202x/2022/11/19/AWS-Blockchain

ブレイ氏は数年間にわたりAWSのヴァイスプレジデント兼上級エンジニアを務めていましたが、2020年に新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策の改善を求めたAmazonの倉庫従業員が解雇されたことに抗議して辞職しました。

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Amazonを離れた後も、ブレイ氏はAWSの舞台裏を共有しないよう注意してきました。しかし、オーストラリア証券取引所がブロックチェーン導入を断念したニュースを見て2016年の出来事を思い出し、当時のエピソードはすでにAWSやその他のビジネスプランにとって重要ではないと確信したため、当時の舞台裏を明らかにすることにしたと述べています。

2016年の半ば、当時AWSのCEOで記事作成時点ではAmazonのCEOであるアンディ・ジャシー氏が、ブレイ氏を含む数人の上級エンジニアを集めてミーティングを開きました。ジャシー氏は優れたコミュニケーターであり、大企業の最高技術責任者(CTO)や最高情報責任者(CIO)からさまざまなトピックや懸念について説明を受け、判断を下していたとのこと。

ジャシー氏はミーティングで、「すべてのリーダーが、AWSのブロックチェーン戦略が何であるのかを私に尋ねてきます。彼らの誰もが、『ブロックチェーンは未来であり、他のすべてを時代遅れにするプラットフォームだ』と言われていると、私に伝えてきます。私は彼らのために良い答えを持つ必要がありますが、正直に言えば、彼らがその素晴らしさを説明しても私には理解できないのです」と述べ、ブレイ氏らにブロックチェーンの展望を尋ねたそうです。

ブレイ氏らは、ミーティングの場だったのかしばらく後のメールだったのかは覚えていないものの、「ブロックチェーンのビジネスはほとんどがでたらめであり、おそらくAWSの戦略にふさわしくないと思いますが、厳しく検討していきます」と返答したとのこと。そしてブレイ氏を含む数人でブロックチェーン業界の調査を行い、実際にさまざまな業界関係者から話を聞いて回ることにしました。


ブレイ氏らは聞き取り調査を行う前の時点で、以下のことを発見したと述べています。

1:ブロックチェーンを実装した「実際に動作するビジネスアプリケーション」を見つけるのは非常に困難である。
2:「洗練された」「堅牢(けんろう)」「製品準備完了」「規制当局の承認済み」とうたうブロックチェーン製品が数多くあったが、すぐに頓挫していた。
3:ブロックチェーンを承認するPoW(プルーフ・オブ・ワーク)スループットはかなり悪い。
4:ブロックチェーンは基本的にデータベース構造であり、それ以外のデータ構造でも代用可能に見える。
5:オーストラリア証券取引所は本気でブロックチェーンに賭けている。
6:マンハッタンを中心に膨大な量のベンチャーキャピタルがブロックチェーンに投資している。
7:ブロックチェーン企業の多くはインフラ構築にAWSまたはGoogle Cloud Platform(GCP)を利用しており、すでにAWSはブロックチェーンビジネスから多くの利益を得ている。


これらの情報を得た上で、2016年の8月にブレイ氏らはウォール街の大手企業やいくつかのスタートアップとミーティングを開き、ブロックチェーン業界についての分析を行いました。ブレイ氏らが尋ねたかった質問は、基本的に「ブロックチェーンで何をしたいのか?」「ブロックチェーンはどのように役立つのか?」の2つでした。

ところが、スタートアップは確かにエキサイティングなビジネスやサービスを開発しており、それらにデータベース構造が必要なことを合理的に説明できたものの、「なぜブロックチェーンでないといけないのか?」という点は明確でなかったとのこと。あるスタートアップは投資家からとても高い評価を受けていましたが、非常に頭の切れるCTOは「これらすべてのシステムで、ブロックチェーンなしでは機能しないものはありますか?」という質問に対し、ためらうことなく「いいえ、ありません」と答えたそうです。

また、仮想通貨シーンにおける数名のリバタリアニズム的な思想を持つ主要人物ともブレイ氏らは面会しました。これらの人々にとっては、政府の規制や契約法からの抜け道としてブロックチェーンが魅力的であったものの、AWSにとって役立つものではありませんでした。さらに、「とにかくブロックチェーンを広めることでお金を稼ぐことができる」と考える派閥もあったそうですが、結局のところ「ブロックチェーンが何の役に立つのか?」という質問の答えは得られなかったとのこと。

ブレイ氏は、「アンディ・ジャシーが『彼らがその素晴らしさを説明しても私には理解できない』と言ったことを覚えていますか?当時のアンディは、エンタープライズITの問題とその解決に必要なツールについて人々の話を聞くことにかけては、おそらく世界で最も熟達した人物だったでしょう。もし彼がブロックチェーンに価値を見いだせなかったなら、それはビジネスにおいてまさに致命的なことだったのです」と述べています。

なお、ブレイ氏らは単に市場調査を行っただけでなく、分散型台帳ネットワークを利用したAWSサービスをいくつか考えたとのこと。しかし、現実世界がゼロトラストのシステムを望んでいるという合理的な説明ができなかったため、このサービスがブロックチェーンを採用する理由はなかったとしています。ブレイ氏は、「文明にはある時点での信頼が必要であり、これこそ文明が存在する最大の理由ではないかと思っています」と述べ、AWSがブロックチェーンに投資するべきだったとは思えないと主張しました。


結局ジャシー氏には、「台帳や暗号化の技術は便利ですが、ブロックチェーンはそうではなく、この分野はペテン師だらけです。しかし、分散型台帳のインフラストラクチャーを構築し、その上にクールなサービスを構築することはできます」といった内容を報告したそうです。

AWSは2019年にブロックチェーンインフラストラクチャーの構築を支援するAmazon Managed Blockchainを立ち上げましたが、ブレイ氏はこれに関わっていないとのこと。ブレイ氏は、「ベンチャーキャピタルによる仮想通貨の発作は2022年まで続いたので、Amazon Managed Blockchainが喜ばしいものの非戦略的な程度の金額を稼いだとしても私は驚きません。2022年11月現在、私はAmazon Managed Blockchainに明るい未来があるとは想像できません」と述べています。

その後もブレイ氏は、さまざまな企業や機関からブロックチェーンについての話を持ちかけられたそうです。シアトルで行われた会議では、ある国際機関のCIOがブロックチェーンが有効な例として、「ある小規模農家が洪水に遭って土地の境界線を示す目印を失った際、悪意ある地主が目印がないことにつけ込んで土地の一部を奪おうとする」といった状況を挙げました。CIOは、「境界線の標識がブロックチェーン上にあれば、そんなことはできないでしょう?」と主張したそうです。

これに対してブレイ氏は、「生涯現役の技術者として、私は政治的な問題の解決策としての技術には常に疑問を持っています。土地登記簿のデータベースを持つことはいいアイデアだと思いますが、ブロックチェーンがあろうとなかろうと、大規模な土地所有者は記録を改ざんして土地を奪う別の方法を見つけられるのではないでしょうか?おそらく、問題は境界線の標識ではなく、権力についてではないでしょうか?」と答えたとのこと。ブレイ氏は、何かの解決策として無理に取り上げられがちなブロックチェーンについて、「解決するべき問題を探している解決策」であると形容しています。

ブレイ氏はブログの最後に、「私はブロックチェーンベースのシステムが何の役にも立たないと言うつもりはありません。しかし、実際に何かに役立つのを見るまでは、否定的な態度をとり続けるつもりです。当時のAWSがブロックチェーンに大きく賭けなかったことをうれしく思います」と述べました。

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