国宝・十二神将立像のうち安底羅大将立像(興福寺蔵)=2024年9月20日、京都市下京区、筒井次郎撮影

 「眷属(けんぞく)」。この聞き慣れない仏教用語をそのままタイトルにした特別展が、龍谷ミュージアム(京都市下京区)で開かれている。仏や菩薩(ぼさつ)に付き従う存在で、本来は脇役だが、その際立つ個性にスポットライトをあてている。

 眷属は、仏像や仏画では中央の主尊の周りを囲うように配置される。仏法を守護したり、主尊を信仰する者に利益を与えたりする役割を担う。

 よく知られるのは、十二神将や二十八部衆、子どもの姿の童子など。こうした「名脇役」たちが会場に約80件集う。

 国宝は2件。興福寺(奈良市)の安底羅(あんてら)大将立像(鎌倉時代)は、薬師如来を守る十二神将の1体だ。堂内で12体一緒に安置される普段と異なり、1体に注目することで、眉を寄せてにらみ、血管が浮き上がる顔つきがよく分かる。力強い造形から、慶派の作と考えられている。

 高野山・金剛峯寺(和歌山県)の不動明王に従う八大童子像も国宝だ。このうち、丸顔で目力のある指徳(しとく)童子立像と竜にまたがる阿耨達(あのくた)童子坐像(ざぞう、鎌倉~南北朝時代)が展示される。

 眷属は、主尊の役割を示す存在でもある。同じ釈迦如来でも、十六善神が一緒に表されれば釈迦は「大般若経」を象徴し、女神の姿をした十羅刹女(じゅうらせつにょ)なら「法華経」にかかわる存在となる。

 名もなき眷属もいる。明治期に廃絶した奈良の寺が所蔵した四天王の眷属像(重要文化財)がその例。持国天の眷属は朱色の体で口を結ぶ。増長天の眷属は黒褐色で唇を突き出すユニークな姿をしている。悟りを開いた仏や修行中の菩薩が無表情なのに対し、眷属は時に表情も格好も独特だ。仏教だけでなく、稲荷神の使いである神狐像(室町時代、岡山県・木山神社)も展示される。

 特別展のきっかけは、約20件の眷属を紹介した1月の特集展示だった。

 担当学芸員の見学知都世さん(26)が、学生時代に学んだ三十三間堂の二十八部衆の多様さに魅力を感じ、企画した。すると、入館者数が例年の2倍に。若い世代が多く、「近年は眷属という言葉がアニメやゲームに用いられていることも影響したのでは」という。反響に応え、展示数を4倍に増やした。

 インドの浮き彫りや仏涅槃(ねはん)図、両界曼荼羅(まんだら)などを通して、インド由来の神々がやがて眷属になる様子も紹介している。

 「各地の文化や信仰を取り込みながら日本に伝わった眷属にこそ、仏教の多様性が色濃く表れている」と見学さん。「ユニークな姿かたちの眷属を、仏教美術に親しむ入り口にしてもらえたら」

 朝日新聞社などの主催。前・後期で一部展示替えをする。前期は10月20日まで。後期は同22日~11月24日。午前10時~午後5時(入館は4時半まで)。原則として月曜休館(10月14日、11月4日開館。それぞれ翌日休館)。一般1600円、高校・大学生900円、小中学生500円。☎075・351・2500(筒井次郎)

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