乗用車を運転中に男子中学生をはね、被害者を救護する前に数分間コンビニに寄ったことで道路交通法違反(ひき逃げ)の罪に問われた池田忠正被告(52)の上告審で、最高裁第二小法廷(岡村和美裁判長)は7日、被告を無罪とした二審・東京高裁判決を破棄し、懲役6カ月の実刑とする判決を言い渡した。被告の逆転有罪が確定する。裁判官4人全員一致の結論。
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被告は2015年3月、長野県佐久市で飲酒運転をして中学3年の和田樹生(みきお)さん(当時15)をはねた。約95メートル先で停車して被害者を捜したが見つからず、酒の臭いを消そうと、車から50メートル先のコンビニで口臭防止用品を購入して使用。その後に被害者を見つけて人工呼吸をしたが、亡くなった。
裁判では、被害者を捜す途中でコンビニに立ち寄ったことが、ひき逃げ(救護義務違反)にあたるかが争われた。
第二小法廷は、事故を起こした運転者が救護義務を果たしたと言うためには「直ちに運転を停止し、けが人の救護を臨機応変に講じることが必要だ」との解釈を示した。
そのうえで、救護と無関係な買い物でコンビニに行った行為は救護義務違反にあたると判断。買い物の後で人工呼吸をしたことから「救護義務を果たす意思は失っていなかった」とした二審の無罪判決を破棄し、一審・長野地裁の有罪判決を支持した。
男子中学生の両親「回復へ、ようやく踏み出せる」
和田樹生さんの遺影を抱き、法廷で判決を聞いた母真理さん(53)の目には涙があふれた。判決後の記者会見で「ようやく主張が認められた。これを機に(遺族が負った心の傷の)回復に向けた一歩を踏み出せる」と語った。
樹生さんの両親は事故が起きた2015年から「事故後の行動は救護義務違反にあたる」と訴え続け、検察に申し入れを重ねてきた。事故から間もなく10年となる中で迎えた最高裁判決だった。
父善光さん(54)は判決を聞いた瞬間、緊張から解放されて「力が抜けた」という。「極めて妥当な司法判断。ひき逃げに対する一つの判断基準が明確に示されたと思う。この判決が広く周知され、今後、一つでも多くの命が救われる社会になってほしい」と話した。