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京丹波栗の花のはちみつを用いたマドレーヌ(手前)=2024年9月18日午後3時0分、京都市中京区のホテル・ザ・三井京都、日比野容子撮影
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 大粒の実で知られる「京丹波栗」のシーズンがやって来た。産地の京都府京丹波町には今月、京丹波栗の専門店が初めてオープンする。京都市の高級ホテルでは京丹波栗をふんだんに使ったアフタヌーンティーが開催中だ。

 「地元の特産品なのに地元で買えないのはおかしい」

 大きくて甘い京丹波栗は高級品とされ、京都市の高級ホテルなどに出荷される。だが、地元には専門店がなく、住民から出店を求める声が上がっていた。

 専門店「京丹波栗工房」は12日、京丹波町須知(しゅうち)の須知商店街にオープンする。開くのは、大阪府茨木市出身の若杉正明さん(50)だ。

 兵庫県西宮市の職員だった若杉さんは、障害福祉課に勤務していた頃、働く障害者に支払われる賃金が低いことに衝撃を受け、2013年に市役所をやめた。

 一念発起して、障害者が働く作業所を西宮市、茨木市に作った。運営に携わるなか、渋皮煮に使うクリの皮むき作業を委託された。京丹波町や京丹波栗との縁が生まれ、京丹波栗の加工・製造に本格的に取り組むことになった。

 オープンする栗工房の目玉商品は、手作りの「京丹波栗きんとん」だ。機械を用いず、良質な京丹波栗を手作業で選別する。一般的な栗きんとんに加えられることが多い水あめやいもあんは使わない。京丹波栗と砂糖だけで仕上げた。「京丹波栗が持つ天然の甘みを存分に楽しんでほしい」と若杉さん。

 町によると、農家の高齢化などで、1978年に293・1トンあった生産量は昨年には35・4トンと約10分の1に減った。若杉さんは「京丹波栗で地域を元気づけたい」と願う。

 いま、取り組んでいるのは、栗ペーストなどの加工品をつくる際に出る鬼皮をはじめとした部位の再利用だ。これまでは産業ごみとして焼却処分するしかなかった。

 神戸大学と共同でパウダー化の研究を進めている。焙煎(ばいせん)してクッキーやジェラートの生地に織り込んだり、コーヒーのようにドリップしたり、新たな使い道に夢がふくらむ。近く特許も申請する予定だ。

 若杉さんは来春までには町に移り住み、まちおこしに本格的に加わりたいと考えている。「京丹波栗のおいしさ、豊かな香りを多くの人に楽しんでいただけたらうれしい」と意気込む。

 京都市中京区の「ホテル・ザ・三井京都」では、京丹波町の全面協力で「京丹波栗アフタヌーンティー」が催されている。

 使われるのは、町の農業法人「丹波農園」で収穫された京丹波栗だ。17ヘクタールの農地に3千本を植えている。猛暑の影響で、例年の9月20日ごろより遅れて今がまさに最盛期。収穫は例年並みを見込む。榊原芳樹社長は「大粒なのに甘いのが一番の自慢」と話す。

 「素材の持ち味を生かすため、香りづけもお酒も極力抑えました」とスイーツを担当したシェフの板垣雄己さん。モンブラン、そして京丹波栗のはちみつを用いたマドレーヌが特におすすめだという。町にある府立須知高校の生徒たちが作った京丹波ヨーグルトのデザートも味わえる。

 ほかにも、「セイボリー」と呼ばれる塩気のある食べ物も供される。京丹波黒豆のポタージュや京丹波産小豆の赤飯、シイタケの押しずしなど「京丹波づくし」のメニューだ。

 11月30日まで。ドリンク2種類つきで7100円。飲み放題で7700円。問い合わせはホテル・ザ・三井京都(075・468・3100)。(日比野容子)

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