写真・図版
上海市内を走るフードデリバリーの配達員たち=2025年2月28日、小早川遥平撮影

 中国・上海で困窮した人に無料で食事を提供する店が現れている。振る舞うのは、かつてフードデリバリーの配達員をしていた店主ら。美談の裏には、経済が変調するなかで、公的なセーフティーネットの整備が進まない現実も見え隠れする。

  • 中国のSHEIN村「発注が急にゼロに」 トランプ関税に振り回され

 青や黄色のヘルメットをかぶった配達員たちが電動バイクに乗って縦横無尽に行き交う大都市・上海。通り沿いに、目を引く赤字の看板がある。

 「免費吃飯(無料の食事)」

 さまざまな野菜を調味料に絡めて食べる、重慶名物の冷菜を提供する庶民的な店だ。店頭で申し出れば、無料で提供している。

 助けを求めに来るのは1日に数人。「春節(旧正月)の後はいない日の方が少ない。上海に来て仕事のない人や社会に出たばかりの人です」

 店主の宋凡祥さん(37)はそう語る。

 宋さんは、中国東北部の黒竜江省の出身。上海などの沿海部よりも発展が遅れているとされる地域だ。故郷でロシアとの貿易業を営んでいたが、通貨が急落し、事業を続けられなくなった。

 2021年、上海に。「上海に出稼ぎに来る人は起業に失敗したか、失業した人ばかり。投資が必要ない配達の仕事は最も向いている」。宋さん自身も配達員となった。だが、現実は甘くなかった。

「裸で走っているよう」

 当初ポケットには20元(約…

共有