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豊竹若太夫さん。服装にあわせた粋な帽子がトレードマークだ
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 ユネスコの世界無形文化遺産に登録された日本の三大古典芸能、「能楽」「人形浄瑠璃文楽」「歌舞伎」。そのうち、世襲制でないのは義太夫を語る太夫と三味線奏者、人形遣いの三業からなる文楽だけだ。だが担い手を募る研修制度への応募者は低迷、昨年度はついにゼロに。そんな文楽で太夫最高位の切語りを務める豊竹若太夫さん(77)は、祖父も「たまたま」太夫で、腰掛けのつもりの入門から義太夫節の沼にはまり、今春ついに祖父の大名跡を十一代目として襲名した。「これからでっせ」と意気込むが、後継者が先細れば文楽の未来が危うい。さあ若太夫さん、どうします?

 10月6日、横浜市の神奈川県立青少年センター。主君信長を討った明智光秀がモデルの人形浄瑠璃「絵本太功記」十段目上演中の場内は、文楽の本拠地・大阪からの巡業を待ちかねた満場の観客の静かな熱気に満ちていた。謀反の決意から非業の死まで13日を1日1段、13段で描く時代物。なかでも山場の十段目は「太十」と呼ばれる傑作で、耳も目も離せぬ激動の展開だから無理もない。

 最高の聞かせどころで、若太夫さん登場。盛大な掛け声と拍手が静まるのを待ち、語り出す。(入るや)月漏る片庇……。その声は張らずとも場内の隅々まで届き、物語に巧まず寄り添う抑揚は聴く人の心をわしづかみにする。声色を使うのではなく、役の性根になりきり変わる声音で、3人1組の人形遣いが命吹き込む人形たちの思いを語れば、太棹三味線がべべんと響く。

 「こないサイケデリックな芝…

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