ガイ・デローニー、BBCニュース、バルカン特派員
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ベオグラード市内の壁に、ロシア雇い兵組織ワグネルのエンブレムが描かれていた(18日)
ロシア兵と一緒に、セルビア人「志願兵」たちがウクライナで戦うために訓練を受けている――。そんな内容のニュース映像をロシア側が作成し、セルビアで怒りの声が噴出している。同時に、セルビアのロシアとの複雑な関係もあらわになっている。
問題の映像は、ロシアの雇い兵集団「ワグネル」がセルビア語で作った。ウクライナで続く戦争に参加するよう促すのが目的とされる。
セルビアのアレクサンダル・ヴチッチ大統領は憤慨。国営テレビで、「なぜワグネルは、私たちの規則に違反すると知りながら、セルビア人に呼びかけるのか」と話した。
同国の首都ベオグラードを拠点とする弁護士や反戦団体も19日、セルビア人をワグネルに勧誘したとして、ロシア大使とセルビア保安・情報局(BIA)のトップを刑事告発した。
ベオグラードでは挑発的な壁画があちこちで見られるが、中心部の建造物の壁に先週、ワグネルのどくろのエンブレムが現れた。極右団体「国民パトロール」の署名入りだった。この団体は、ロシア支持の集会を開催したことがある。ただし、参加者はわずかだったという。
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セルビアのアレクサンダル・ヴチッチ大統領
セルビア人が国外の紛争に参加するのは違法だ。
ウクライナでの戦争に関わっているセルビア人は、多くはないとみられる。2014年にロシア軍と一緒にウクライナで戦った人もいたが、公的には承認されていなかった。
実際、セルビアの裁判所は25人ほどに対し、「外国の戦場での戦闘」に参加したとして有罪判決を出している。
ロシア優先と批判されてきたが
セルビアは、欧州連合(EU)加盟の野心よりも、ロシアとの長年の友好関係を優先していると批判されることが多い。ただ、最近の状況は、現実がそれほど単純ではないことを示している。
ヴチッチ大統領は、ウクライナでの戦争に関し、セルビアは「中立」だと発言している。ロシアのウラジーミル・プーチン大統領とは「何カ月も」話をしていないとも説明。両国関係が良好とは言えないことをうかがわせている。
主要政党はどこも、ロシアのウクライナ侵攻への支持をほのめかしてすらいない。
国連でもセルビアは、ロシアの侵攻を非難する決議に一貫して賛成票を投じてきた。
欧州議会では今週、ヴチッチ氏が、「私たちにとって、クリミアはウクライナであり、ドンバスはウクライナだ。今後もそのままだ」と発言。セルビアのスタンスを明確にした。
EU加盟めぐる力学
しかし、欧州議会はセルビアに好印象をもっていない。ロシアへの制裁実施を、セルビアが繰り返し拒んでいるからだ。
欧州議会は、セルビアが制裁に同意するまでEU加盟交渉を中断するよう求める決議を可決。セルビアが交渉中断を決議されたのは、これが2回目だ。
セルビアがロシアとの友好関係を維持することは理にかなっていた。ロシアから安価なガスの供給を受けられる、ロシアの国営天然ガス会社ガスプロムがセルビアの石油会社NISの過半数を所有している、ロシアがコソヴォの独立を認めない――といったことが、その理由だった。
だが、ウクライナ侵攻が認識を変えた。プーチン氏は、ウクライナ東部の占領地域の独立を承認する際、正当化の理由として、コソヴォの一方的な独立宣言に言及。セルビアは悪印象をもった。
一方のEU側も、西バルカン諸国への無関心が、ロシアに干渉の余地を与えていたと、遅まきながら気づいた。アルバニアと北マケドニアの加盟交渉が速やかに始まり、ボスニアが加盟候補となった。
セルビアのヴチッチ大統領は今週、同国が西側に近づいて行くと、改めて強調した。
「EUが私たちの取るべき道だと分かっている」と、ヴチッチ氏は米ブルームバーグに話した。「他に道はない」。