アングル:弾圧強めるイラン、「さらに怒り蓄積」との指摘も | ロイター

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[ドバイ 10日  ロイター] – イラン当局は抗議参加者を絞首刑に処し、クレーンから吊るされた遺体が見えるようにした。政府に対する抗議行動が発生して数カ月、恐怖を抱いた人々は街頭から姿を消したようだ。

 イラン当局は抗議参加者を絞首刑に処し、クレーンから吊るされた遺体が見えるようにした。政府に対する抗議行動が発生して数カ月、恐怖を抱いた人々は街頭から姿を消したようだ。イラン・イスファハンの裁判所で9日撮影(2023年 ロイター/Mizan News Agency/WANA)

ここ数年で最悪の政治的混乱の弾圧が成功したことで、イラン支配層の強硬派の間で、反体制派の抑圧こそ権力維持の道だという発想が強まる可能性が高い。

だがロイターの取材に応じたアナリストや専門家によれば、こうした成果は長続きしないかもしれないという。国家の暴力により生命を奪うという手段に頼れば、反体制派を地下活動に移行させるだけでなく、40年にわたって国内を支配する聖職者権力に対して一般のイラン国民が感じている怒りは深まる、というのが彼らの主張だ。

テネシー大学チャタヌーガ校のサイード・ゴルカー氏は、「街頭で訴える人数は減っているので、(弾圧は)どちらかと言えば成功している」と語る。

「とはいえ、それによってイラン国民の間には大きな憤りの感情が生まれている」

「イラン人権キャンペーン」のエグゼクティブ・ディレクターを務めるハディ・ガエミ氏は、体制側がもっぱら力を入れているのは、手段を問わず、国民が服従するよう威圧することだという。

「抗議行動は形を変えたが、終わってはいない。投獄されていない人々は、闘い続ける方法を見つけようと決意し、地下に潜行している」と同氏は指摘する。

国民の怒りや国際的な批判に逆行するように、イランは死刑判決を何十件も連発し、クルド系イラン人女性マフサ・アミニさん(22)の死に激怒したイラン国民を萎縮させようと試みた。

2022年9月、風紀警察に拘束されていたアミニさんが急死した事件は、イラン社会の中で何年にもわたって鬱積(うっせき)した怒りを爆発させた。怒りの矛先は、経済的困窮や少数民族差別から社会的・政治的統制の強化に至るまで、多岐にわたっている。

司法当局によれば、抗議行動が始まって以来、少なくとも4人が絞首刑に処された。その中には、民兵組織バシジの隊員を殺害したとされる容疑で7日に処刑された抗議参加者2人が含まれている。

国際人権団体のアムネスティ・インターナショナルは先月、イラン当局が「抗議参加者を威圧するための形式的な裁判」により、このほか少なくとも26人について死刑を求刑していると述べた。

こうした動きの背景にあるのは、専門家に言わせれば、聖職者支配をもたらした1979年のイラン革命以来、聖職者が一貫して採ってきた統治手法だという。つまり、異議申し立てを弾圧するのに手段を選ばないという姿勢だ。

「政権の主要な戦略は常に、恐怖を通じての勝利だった。政権が無能であり、改革や優れたガバナンスの能力がない以上、体制にとって唯一のソリューションは抑圧なのだ」とゴルカー氏は語る。

<経済の惨状>

死刑執行が始まって以来、抗議行動の勢いは明らかに落ちている。これまで抗議が最も激しかったのは国内でもスンニ派が多く住む地域で、最近の抗議はそうした地域にほぼ限定されている。

だがアナリストによれば、数カ月の抗議行動の間に国全体に何とか根付いた革命的な精神は、治安当局による弾圧に抗して生きのびることができるかもしれない。それも、抗議参加者の不満の原因が未解決だからというだけの理由ではない。

イラン経済の苦境は、主としてイラン政府による核開発疑惑をめぐる米国の制裁のために深刻化しており、国民の多くはインフレの進行と失業率の上昇による苦痛を味わっている。

インフレ率はここ数十年で最高の50%超にまで加速した。イラン統計センターによる複数の報告書では、国民の50%以上が貧困線以下の生活を強いられる中で、若年層の失業率は高止まりしている。

「(かつての状態に戻るような)転換点は見当たらず、体制側がアミニさん死亡以前の時代に戻ることはできない」とガエミ氏は語る。

ワシントンの中東研究所でイラン・プログラムのディレクターを務めるアレックス・バタンカ氏は、イラン政府は今回の危機を脱する手段として弾圧と暴力に依存してきたと語る。

「短期的には効果があるかもしれないが、長期的にはうまくいかないだろう」とバタンカ氏は述べ、その理由として、イラン経済の悪化や、「大きな政治的変化を欲し、そのために闘おうとする」恐れを知らない若者たちの存在を挙げた。

イブラヒム・ライシ大統領を初めとするイラン指導層が、国民の支持を獲得するために斬新な政策を打ち出そうとしている兆候はない。むしろ治安の維持だけにきゅうきゅうとしているように見える。

イランの聖職者指導部は、抗議参加者に対して自制的な姿勢を見せれば、政界・民兵組織の支持者らから弱腰だと見られるのではないかと気にしているようだ、とアナリストらは指摘する。

ロイターはライシ大統領の執務室関係者にコメントを求めようとしたが、連絡が取れなかった。

ゴルカー氏は死刑執行のもう1つの目的として、指導層としては、バシジなどの組織に属する強固な支持者を満足させる必要があったからだと指摘する。バシジは志願者による民兵組織で、自然発生的で明確なリーダーのいない騒乱への対応で活躍してきた。

<ハメネイ師も弾圧を支持>

「体制側は、支持者らに向けて、あらゆる手段で彼らを支えるというメッセージを送りたがっている」とゴルカー氏は語る。

当局はショックを与えるために、アスリートからアーティスト、ラッパーに至るまで複数の著名人に対し渡航禁止や懲役刑を課した。死刑を執行された中には、空手の国内選手権優勝者もいた。

イランの最高指導者ハメネイ師は9日のテレビ演説で、弾圧を緩める意志が政府にないことを示唆し、「公共の場所に放火した者は疑いもなく反逆罪を犯した」と述べた。

妥協のない国家権力の行使は、ライシ大統領のこれまでの経歴でも中心的なテーマだった。米国や人権活動家らは、同大統領が1980年代に数千人もの政治犯の処刑を指揮する立場にあったとしており、米国はこうした過去を理由に同氏を制裁対象としている。

ライシ大統領は2021年の大統領選挙の直後、報道陣から1980年代の処刑に関する質問を受け、自分は国民の安全を守ったことで賞賛されるべきだと答えた。

ガエミ氏によれば、現在死刑執行を推進している主要な当局者らは、1980年代に行われた政治犯の処刑にも深く関与していたという。

「だが、もはや彼らがひそかにそうした罪を犯していた1980年代ではない」とガエミ氏は言う。「彼らがやることはすべてソーシャルメディアに流れ、国際的に非常に大きな関心を集めている」

(翻訳:エァクレーレン)

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