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【栃木】不登校や引きこもりの当事者や家族を支援しようと、宇都宮市が相談業務や講演会、参加型イベントなどに取り組んでいる。内閣府調査の結果から推計される、同市の引きこもり当事者(15~39歳)の数は約2800人。市の担当者は「親が想定するよりは回復に時間がかかる。長い目で見てほしい」と話している。
宇都宮市の南図書館サザンクロスホールで9日、若者の自立支援をテーマにした講演会が開かれ、オンライン参加を含めて約170人が参加した。市や福祉関係機関、ハローワークなどでつくる市子ども・若者支援地域協議会の主催。1千人以上の不登校の子どもを診察した小児科医の門田(もんでん)行史・自治医科大准教授が、成長や脳の仕組みとの関係から不登校への対応について解説した。
「地域で育てる子ども・若者とその家族&ちょこっと脳の話~思春期・青年期の発達特性の理解と対応~」と題した講演では、年齢を重ねて脳が成長する影響で、9歳ごろが親子関係が複雑になっていく境目と説明した。注意欠如多動症(ADHD)や自閉スペクトラム症(ASD)の発達障害における観察の仕方や感じ方の違いなどについても解説した。
その上で、不登校の原因はボタン付きの制服を着ることができないなどの感覚過敏や学習障害(LD)、人間関係などにあると分類。働きすぎている脳を休ませる対策の必要性のほか、子どもにストレスがかからないように登校についての質問は前日に聞かないことや、失敗した感覚にならないように学校に「行く日」ではなく「行かない日」を決めておく手法について語った。
門田准教授は「2カ所以上、3人以上の場所や人とつながると状況を打開できる人が多い」とも語り、困った時に話を聞いてくれる人が多いことの大切さを訴えた。
講演の様子は、市公式サイトの青少年自立支援センター「ふらっぷ」のページで公開されている。
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講演に合わせて行われた相談会には、当事者や家族計22組が参加した。当事者の年齢層は10代後半から20代前半で、不登校や引きこもり当事者と家族を支援するNPO法人などが助言を行った。
中学校から不登校が続いているという内容の相談が多く、発達障害の影響の可能性について尋ねる相談のほか、発達障害の診断を受けた当事者に対して、家族がどう対応すれば良いのかの相談が寄せられたという。
母親と相談に訪れた10代後半の当事者は、中学校から不登校になった。「学校に行くためのモチベーションが探せない」と思い、人間関係の葛藤を抱え、周囲に対し自分が異物のように感じる感覚を持っているという。
相談を受けるうち、母親は不登校の原因は学校とのトラブルにあると勘違いし、母親が自分を責めていることが分かった。母親は安堵(あんど)の表情を見せ、相談員は「学校に行くことを目標にするのではなく、その先に目標を持って、学校を『活用』してみたら」とアドバイスした。
協議会の調整機関である「ふらっぷ」の担当者は「親子の関係は近すぎて意外と本音を話しておらず、第三者が入ると考えが整理されることがある」と指摘。「家族だけで抱え込まず、支援機関を知ってもらい、利用して欲しい」と話している。
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宇都宮市青少年自立支援センター「ふらっぷ」では、義務教育終了後から39歳までの引きこもりや不登校など、自立に困難を抱える若者とその家族の相談事業を手がけている。市内在住や在勤、在学の当事者が対象で、年間約170人から約1500件の相談が寄せられるという。
相談事業のほかに、参加型プログラムを2023年9月から実施している。体験活動や他者との交流を通じ、自信回復や社会復帰につなげるのが狙いだ。メイクアップ講座や農業体験、ヨガ教室やボランティア活動など多彩な内容で、体験参加も可能。ボードゲームなど1人でできることから始め、達成感を感じながら興味を広げていくケースもあるという。
「人の発達は体験でつちかわれていくが、不登校や引きこもりの当事者は社会的体験が少なく、その機会を奪われている。それを補完していきたい」とセンターの担当者。「学校に行かないということに焦点を当てるよりも、力をたくわえている大事な時間を過ごしていると気づいてほしい。けっして『詰んで』はいないので、1人だけで考えないで」と呼びかけている。