キダ・タローさんは、世界中の音楽からリズムの本質をつかみとるのが天才的にうまかった。「アホの坂田」はメキシコの民族舞踊のリズムをベースにしている。戦後の多くの作曲家は米軍キャンプでジャズやポップスを吸収したが、キダさんにとっては自らピアノを弾いていたキャバレーが世界への窓だった。
ゼロから全く新しい音楽をつくることは、いつの時代も不可能だ。創造とは既存のモチーフやリズムを無限に組み合わせ、自分の表現にすることと言えるだろう。付点音符が元気に跳ねるキダさんの音楽は、どれもこれもよく似ている。でも、どれが「出前一丁」で、どれが「かに道楽」で、どれが「プロポーズ大作戦」か、サウンドを聴いた瞬間、誰にでもすぐわかるはずだ。
ほんの小さなモチーフを、多…