建設中のミニシアターとなる建物=2024年9月30日午後3時0分、さいたま市大宮区桜木町1丁目、山田みう撮影

 映画館が好きだ。

 確かに映画はDVDでも見られるし、最近はサブスクを使って自宅で気軽に楽しめるようになった。それでも、時間の許す限りは映画館で映画が見たい。外界と遮断された暗室の中で、仕事も何もかも忘れてひたすらスクリーンに没入する――。そんな特別な体験は、映画館でしか味わえないからだ。

 2年前。さいたま市への赴任を告げられた私は、電話を切るやいなや地図アプリで「さいたま市 映画館」と検索をかけた。ただ、人気映画を中心に上映するシネコンはいくつかヒットしたものの、小規模公開を前提に作られた映画や旧作映画を上映するいわゆるミニシアターは見当たらなかった。

 東京で過ごした大学時代、暇さえあれば近所のミニシアターに歩いていって古い邦画を見ていた。人口が多い街には必ずあると思っていたから、少しショックだった。

 赴任してしばらくたって、さいたま市が人口100万人以上の大都市で唯一、ミニシアターがない街だと知った。埼玉県内で定期的に映画の上映会をしているNPO「埼玉映画ネットワーク」の由布隆さんは「市内にミニシアターをつくりたかったが、採算性の理由から諦めたという人は多い」と教えてくれた。

 確かにさいたま市は東京に近く、30分も電車に乗れば複数の都内のミニシアターに行くことができる。競争環境は厳しそうだ。さいたまでは難しいのか。

 そんな時、「さいたまにミニシアターができるかも」という話を耳にした。調べていくと、JR大宮駅から歩いて10分ほどに建設中の「OttO(オット)」(同市大宮区)のことだとわかった。

 5階建ての1階はカフェ、2階は映画館、3~5階は計25室のシェアハウスで、コンセプトは「住める映画館」。安定した賃貸収入を得ながら映画館を営む、日本で初めての経営モデルだという。

 仕掛け人の今井健太さんに尋ねると、「自分も小さい頃は自転車で街の小さな映画館に通い、知らない映画にたくさん出会った。そういう場が近所にあったら、うれしくないですか?」とさらりと答えた。そんな様子をまとめて記事で紹介した。

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 実はいま、ミニシアターや名画座の数は全国的に見ると増えているのだ。かつては映画館があったのに、なくなってしまった街が中心だという。全国の映画館などでつくる一般社団法人「コミュニティシネマセンター」の岩崎ゆう子事務局長は「自分の街に映画館があって欲しいと願う人は今も多いのでは」と背景を分析する。

 OttOは3月末に開館予定。自分が慣れ親しんだ街に、新しくミニシアターができると思うと胸が躍る。「極道映画を近所の映画館で見る」。そんな悲願がかなう日も近いかもしれない。

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