私が住むアパートメントの先代の住人はマシューという。面識は無い。留守中に部屋を内見し、調度品から若く背の高い男性と推察したことと、今も彼宛てに届く郵便物だけが接点だ。ニューヨーク市議選の候補一覧が載る冊子や、大統領選の期日前投票を促すお知らせも、紳士服店のクーポンと一緒に封筒無しのむきだしで送りつけられてくる。市民権の無い私に同じ冊子が届くことは無い。
- 岡田育 ハジッコを生きる
二〇二四年の秋は選挙の秋だった。周囲は大統領選の話題でもちきり、私を含む非米国人は「俺ら移民の分もしっかり投票してくれよな」と相槌(あいづち)を打つ。土地柄、カマラ・ハリスに期待を寄せる声が圧倒的だったが、イーロン・マスクに心酔してドナルド・トランプを支持するアラブ系住民もいれば、イスラエルを厳しく非難するユダヤ系もいて、思想信条はさまざま、誰と何を話すにも緊張が走る。
結局、共和党が大勝し、開票…