音楽ユニットの「ベリーグッドマン」。左からHiDEX、Rover、MOCA=惠原弘太郎撮影

 あまたのプロ野球選手がマウンドや打席に向かう時の登場曲に使い、高校球児から人気を集め、今夏に開場100周年を迎える甲子園球場の記念事業ではアンバサダー(アーティスト)に。3人組ボーカルユニットのベリーグッドマンは、令和の応援ソングの歌い手としてスポーツ界にとどまらない人気を集める。

 その前向きな歌詞の裏で、3人は10代の時に努力が実らなかった挫折体験を抱える。それでもイメージの固定化をいとわず応援ソングを作り続ける理由を聞いた。

親友が天才、後輩に気遣われる、突きつけられた現実

 ――代表曲の一つ「ライトスタンド」のミュージックビデオでは、音楽室でトランペットを手にするRoverさん、野球場にたたずむMOCAさん、ドラムセットを背にするHiDEXさんの姿があります。それぞれが複雑な思いを持っているものだとか。

 Rover「中学からトランペットを始めて、ほんまにプロになりたいと思って毎日のように練習してました。高校は吹奏楽で有名な淀川工業(現・淀川工科高校)に行って、1年生の時には5人編成で金賞を取りました。でも挫折して一切トランペットを触らなくなり、高校も辞めて通信制に転校したんです」

 ――淀川工科は吹奏楽コンクールの金賞最多受賞の名門です。なぜそんなことに?

 Rover「同じ金賞メンバーに、小学校から一緒で同じくトランペットをやっていた同級生がいるんです。ずっと隣でやってて、練習後に遊んだり休日に釣りに行ったりするのも一緒。2人とも周りからうまいと言われてたんですが、ある時から自分が練習を重ねてもなかなかうまくできないことをこいつはパパッとできるなと気付いて焦りだして。そんな時に、先生から『あいつは百年に1人の天才や、お前は勝たれへんぞ』って言われて。今となれば、先生は奮い立たそうとしてくれた、そんなに焦らなくていいと教えてくれたんだと思いますが、当時はめっちゃショックで。天才がいたらどんだけやっても時間の無駄や、もうええわと、駅でトランペットのマウスピースを投げつけました」

 HiDEX「面白いのが、捨てられたマウスピースをたまたま見つけて拾ったのがその同級生で、今も彼が持っています」

 Rover「やっぱり彼はトランペットの神様に愛されてるんです」

 HiDEX「高校は別だったので状況は全然知らないんですが、中学の時はRoverとその同級生と同じ吹奏楽部でした。その時は先にトランペットを始めていたRoverの方が目立つパートを担当することが多かったんですが、高校でガラッと変わったみたいですね」

 Rover「ずっと隣にいたのが天才だと知ってグレましたね。僕が弱い人間だったというのもありますが、それまで真剣にやっていただけにこれ以上は頑張れないと思ったんです」

 ――MOCAさんは高校球児で、宮崎の強豪・延岡学園の野球部でした。

 MOCA「入学した時点で、上には上がいると気付きました。自分が3年生になっても、下級生がベンチ入りしているのに自分はメンバー外ということもざらにあって、もうプライドはズタズタです。後輩も気を使っているようで、メンバー外の存在はちょっといじってくるというかなめられているかもと感じる時もあって。被害妄想かもしれないですけど」

 Rover「偏屈になってしまうよな。俺からの質問でごめんやけど、その時は野球を好きやった?」

 MOCA「それでもめちゃめちゃ好きやったなぁ。つらかったけど、やっぱり甲子園に出たくて。野球以外でも目立って存在感出していかなあかんと思って生徒会長もやりました。それで3年生の夏は背番号20でギリギリベンチ入り。宮崎大会に優勝して甲子園も決めました。でも甲子園はメンバーから外れてアルプススタンドから応援してました」

 ――当時は甲子園のベンチ入りは18人まででした。昨年からは20人に拡大されて、今ならその悲劇はなかったですが……

 MOCA「そのニュースを知った時、あの時にそうやったらなぁとはあまり思わなくて。もし憧れの甲子園にベンチ入りできていたら、おそらく調子にのって大学で野球続けて、結局は挫折して途中で辞めて遊んでしまうような人生だったと思うんです。逆に外れたから、今はこうやって歌えてるんだと思えたのはうれしかったですね。あの時、アルプススタンドで朝日新聞の取材を受けて『野球で果たせなかったメジャーの夢をこの先は音楽で果たします』って答えて記事になったんですよね。それは今も実家に飾ってます」

 ――HiDEXさんのドラムは?

 HiDEX「12~18歳の時にやってました。僕は2人と違って不純な動機ですけど、家が貧乏やったからお金持ちになりたいって。なぜかその時に思ったのが音楽でドラムでした。ものすごくうまい人と一緒にやることもあって、俺はこの人みたいにはなれないと思うと同時に、失礼なんですけどこれほどうまい人でも自分が思ってたほどの金持ちじゃなかったというのに現実を突きつけられた気がして。ドラムをやめてフラフラする生活になってしまいました」

 Rover「やっぱりそれぞれのジャンルで化け物みたいな人がいましたね」

「悲しい現実」と「明るい日常」

 ――そうした努力が報われなかった経験があるのに、「努力に勝る天才なし」といった努力肯定で泥臭く前向きな内容の歌詞が書けるのはなぜですか?

 Rover「努力したからと…

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