ネクタイにシルクハットをかぶり、車いすでゆっくりと到着した。話すことはままならないが、一冊の本を握りしめていた。「広島からの最後のメッセージ」と題した自伝。巻頭にはこう書かれている。「贈 岸田首相 世界の平和 森田隆 100歳」

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 5月、ブラジル・サンパウロを訪れた岸田文雄首相のスケジュールは分刻みだった。娘の斉藤綏子(やすこ)さんは振り返る。「岸田さんに会えるかは不明瞭だった。だが父は『広島選出の議員に核廃絶をお願いすることに意味がある』と強く願っていた」

 首相側が提示した面会時間は、わずか5分。それでも、在ブラジルの被爆者らは短い時間で核廃絶への願いを伝えた。自伝を首相に渡し終えた森田さんの表情は、心なしか満足げだった。

 被爆したのは、憲兵兵長だっ…

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