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鴻巣友季子さん(左)と柳原孝敦さん=2024年10月10日午後7時45分、朝日新聞東京本社、伊藤宏樹撮影
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 2024年のノーベル文学賞は、韓国の作家ハン・ガンさん(53)に決まった。今年の選考について、翻訳家で文芸評論家の鴻巣友季子さんと、スペイン語圏の文学に詳しい柳原孝敦・東京大教授が語り合った。

 鴻巣 ハン・ガンはいつか来る、とずっと名前はあがっていましたけれど、それにしても若い。

 柳原 初の1970年代生まれですね。

 鴻巣 快挙だと思います。日本でもこんなに翻訳書が出ていて、人気もある作家は、カズオ・イシグロ(17年)以来じゃないですか。

 ――アジアからの受賞は12年の莫言(中国)以来、12年ぶりです。

 柳原 韓国の文化はいま、Kポップが世界を席巻している。そういう流れのなかで文学も各国に紹介されているんじゃないでしょうか。韓国の作家たちはスペイン語にも訳されています。

 鴻巣 国際ブッカー賞をアジアの作家で初めて受賞した「菜食主義者」は、英語圏よりも邦訳が5年先に出ていました。今回の受賞は世界中で翻訳がつないできた結果だと実感します。感謝!

 ――受賞理由は「歴史的なトラウマに立ち向かい、人間の命のもろさをさらけ出す強度のある詩的散文」とされました。

 鴻巣 民主化運動の光州事件を題材にした「少年が来る」や、古代ギリシャ語を勉強する女性が主人公の「ギリシャ語の時間」など、どの作品も実験性とストーリーテリングが見事にマッチしていて、韓国文学のなかでも一頭地を抜いているなと私は思っていました。

 柳原 ノーベル文学賞はヨーロッパの文学賞みたいなところがあるけれども、今回はヨーロッパから見ると遠いところ、辺境である韓国での歴史の悲劇を受けとめる人を選んだ、ということなのでしょうか。

後半では、小説と詩の関係を深掘りし、今年日本で大ヒットしたあの海外文学についても語り合います。

 鴻巣 「詩的散文(poet…

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