5月31日に兵庫県西宮市の鳴尾浜球場で行われた阪神―ソフトバンクの2軍戦で公式記録を担当する足立大輔さん。スーツ姿でグラウンドを見つめる=山口裕起撮影
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 試合が進むにつれ、緊張感は高まっていく。だが、引き締まったその表情は変わらない。ペンを片手に、じっとグラウンドを見つめた。

 5月24日、阪神甲子園球場で行われたプロ野球の阪神―巨人。この試合で巨人の戸郷翔征投手(24)が自身初のノーヒットノーランを達成した。

  • 「剛」と「柔」冷静な使い分け 巨人の戸郷翔征がノーヒットノーラン

 プロ野球では、2023年9月にオリックスの山本由伸投手(現大リーグ・ドジャース)がロッテ戦で達成して以来、史上89人目、通算101度目の快挙。巨人の投手が甲子園の阪神戦で達成するのは、1936年の沢村栄治投手以来、88年ぶりだった。

 「やっと緊張感から解き放たれた。最高です」

 九回2死二塁、空振り三振で27個目のアウトを奪った戸郷投手は声を弾ませた。ヒーローインタビューが聞こえてくるバックネット裏で、右腕と同じように、その人も胸をなで下ろしていた。

 日本野球機構(NPB)の公式記録員、足立大輔さん(32)だ。「七回くらいからずっとドキドキしていました。終わった瞬間はホッとして。ああ、達成したんだ、と」

 試合中、安打や失策などの判定をしながら、手元のスコアシートに各打者の結果を1球1球、細かく記入する。平均約3時間の試合で、1球たりとも目が離せない仕事だ。1軍の試合はメインとサブの2人1組で臨む。

 この試合、安打か失策か、どちらともとれそうなプレーがあった。三回2死、阪神の9番打者、及川雅貴選手の打球は投手前のやや三塁側にボテボテと転がった。戸郷投手は素早くマウンドをおりてつかみ、一塁へ。しかし、送球がそれた。

 数秒後、バックスクリーンの電光掲示板に失策を示す「E」のランプがともった。結果的に、これを安打と判定していれば快挙は生まれていなかった。

 足立さんが毅然(きぜん)と…

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