宍戸常寿・東京大学大学院教授

 インターネット上にあふれる偽・誤情報対策を念頭に、政府はデジタル空間の情報流通を健全にするための検討を進めている。ただ一方で、「官製ファクトチェック」になりかねないという懸念の声も出ている。この問題をどう考えればよいのか。対応を議論してきた総務省の検討会で座長を務めた宍戸常寿・東京大学大学院教授(憲法)に話を聞いた。

 ――デジタル空間の現状をどう認識していますか。

 「表現の自由が確保される一方で、偽情報・誤情報があふれ、健全な情報の流通が阻害されています。原因の一つがインターネット上のアテンションエコノミー。情報の質ではなく、人々の興味に経済的な価値を置くということです。そのため、特定の情報に影響されやすい人に向けて効果的に情報が発信されています」

変わる世論形成プロセスと「思想の自由市場」

 「さらにそれを受け止めた人がSNSの中で拡散し、『親しい人が信じている』『影響力のある人が正しいと言っている』といった理由で、真偽にかかわらず、その情報を正しいと信じる人が増えている。『フィルターバブル』の問題です。自分の信念を変えることなく、ただ強固にするメカニズムが生まれ、これまでの世論形成プロセスや、『思想の自由市場』の働きが変わってきています」

 ――具体的にはどんな問題が起きていますか。

 「災害のたび、デマの問題が指摘されてきました。元日の能登半島地震の直後にX(旧ツイッター)などのSNSに虚偽の投稿が相次ぎました。また、今回の総選挙では幸い、偽情報・誤情報の流布・拡散が問題化しませんでしたが、将来は、生成AIの発達で悪意のある偽情報により選挙が混乱する可能性がある。実際に起きた時に慌てふためかないよう、小康状態にあるいまから問題の所在を明らかにし、情報流通の健全性を議論しておく必要があります」

  • 【関連記事】偽・誤情報の法規制に「大きな問題」 官製ファクトチェックの危うさ

 ――偽情報・誤情報に対し、国家はどんな役割を果たすべきですか。

 「それに先立ち、誹謗(ひぼ…

共有
Exit mobile version